火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第3章 生き残った一人の少女
「海にはよく行かれたのですか?」
その問いかけに、
少し遠くを見ながら、ふみのは頷く。
(とうさまとかあさま、よしのと健一郎とも行った海。
もうみんなはいないけれど、
海はきっと、今もあの場所で
きらきらと光り続けているのかしら…)
懐かしい記憶を思い出して、ふみのは静かに笑う。
夜月に照らされるその横顔は、切なかった。
杏寿郎はふみのを悲しませてしまったと焦り、
どう声をかければいいか、分からなくなってしまった。
その時。
今にも周りにかき消されてしまそうなほどの
やわらかく、ちいさい声が聞こえてきた。
「……う ん……うんっ……っ。
とっ…ても、たのしかっ た…っ」
ふみのの声を初めて聞いた。
それは儚くてか弱くて、
なのに強く、芯があるような、
透き通る声だった。
ふみのは月を見たまま目を閉じて、静かに涙を流した。
月明かりは優しくふみのを照らしていた。
(…こんなにも可愛らしい声は、聞いたことが、ない)
悲しみを乗り越え、懸命に
今この瞬間を生きているふみのの姿に
杏寿郎は胸を打たれた。
「…良かったら、今度そのお話の続きを、
聞かせてもらえませんか?」
ふみのは目を開けると
杏寿郎がやさしく微笑み、見つめていた。
それはふみのの冷たくなっていた心に
光が差し込んでくるようだった。
「…はい…っ!」
笑ってくれた。
その笑顔が、杏寿郎にとって
何にも変えられない喜びになっていくのだった。