火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第3章 生き残った一人の少女
綺麗な満月の夜だった。
ふみのは部屋の明かりを消して、
月明かりに照らされた縁側に座り、
海の絵を見ていた。
ふう、とため息をつく。
(どうしたら話せるように、なるかしら…)
悶々と一人考え込んでいると、
襖を叩く音が聞こえた。
「ふみのさん!夜分にすまない!
開けてもいいだろうか」
くるりと後ろを向くと杏寿郎が襖を開けた。
ふみのは手に持っていた海の絵を、自分の脇に置いた。
静かにと頷くと、杏寿郎はゆっくりふみのに近づく。
「隣に座ってもいいだろうか?」
こくりと頷き、ふみのの隣に、杏寿郎は腰を下ろした。
虫の声が夜の縁側を彩る。
すこし時間が経って杏寿郎は
ふみのに向かって話しかけた。
「夕食の時、あまり元気がないように見えたので、
心配になり…。何か、ありましたか?」
ふみのは俯いて、小さな唇を噛む。
「母上も話していたように、無理はしてはいけない。
…もし、俺にできることがあれば、言ってほしい」
杏寿郎は心配そうにふみのの横顔を見る。
月明かりに照らされているふみのの長いまつ毛が
きらきらと艶めいていた。
(杏寿郎くんはいつも、やさしい。
日の光のように、あたたかいなあ…)
心配してくれる杏寿郎の気持ちに、
ふみのは心が解されていくようだった。
ふと、杏寿郎はふみのの横に置いてある紙に気付いた。
「……?ふみのさん、それは何ですか?」
杏寿郎は少し身を乗り出して聞くと、
ふみのは、絵をそっと杏寿郎に差し出した。
「……よもやこれは…!!海、ですか?!」
まだ見たことのない海に、
杏寿郎は胸をときめかせていた。
「俺はまだ、海を見たことがありません!
きっと大層美しいところなんだろうと思います!」
まじまじと穴が開くほど絵を見ている杏寿郎。
その様子にふみのはなんだか嬉しくなった。