火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第21章 希(まれ)を込め、想う ˖☽°.*
杏寿郎はそれを聞くと、
ふみのを引き寄せ、強く抱きしめた。
「…きょっ、杏寿郎…?!」
ふみのは驚き、目を瞬かせる。
杏寿郎がさらに腕に力を込めて、
ふみのを抱きしめた。
「……、…杏寿郎…?」
杏寿郎は無言のままだった。
ふみのは目を閉じ身を委ねた。
互いのの温もりを感じつつ、二人は想う。
何にも代えることのできない
二人だけの日々を愛しみながら、
この先も、共に過ごしていきたい。
それは、側から見たら、
質素で、平凡と思われるかもしれない。
ただ一緒にいられることが、
二人にとって、何よりも特別なのだ。
心から愛する人と、共に生きる幸せ。
それ以上の幸福が、どこにあるのだろうか。
杏寿郎の熱い抱擁に、
ふみのもその背中に手を回す。
「杏寿郎?…さっきね、
ほんの少しだけど…、右手の指先が動いたの」
「…!! それは本当か…!?」
杏寿郎は目を見開き、ふみのを見た。
「まだ意識しながらって感じだけど…。
でも前より、腕が軽くなった気がするの。
…人って…、自分の弱さや
先の不安に押し潰されて、一瞬にして
心を囚われてしまうこともあるけれど、
…きっと、今もこうやって
私達の見えないところで、
何か、希望の光が…灯っているのかなって。
杏寿郎と過ごせる時間を
めいいっぱい楽しんで…、
この幸せを胸に留めながら、
これから先も前を向いていけたらいいなって…思ったの」
ふみのの微笑みに、
杏寿郎の瞳が僅かに潤む。
「…そうだな。
目先のことも大切だが、
今、この時に…感謝を忘れてはならないな」
「うん、本当に、そうね。
…ねぇ、杏寿郎?」
ふみのは背伸びをして、
杏寿郎の耳元でそっと囁いた。
「杏寿郎の大好きなさつまいものお料理、
たっくさん、作ってあげるね」
そう言ってふみのがにっこり笑うと、
杏寿郎にも笑顔が溢れた。
「それは…有り難い限りだ。
ふみのの作る料理はどれも絶品だからな」
「ふふっ、ありがとう。
他には何を作ろうかしら…!」
うーんと首を傾げ、楽しそうに考えるふみのを見て、
杏寿郎が無意識にその口を開いた。