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火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】

第21章 希(まれ)を込め、想う ˖☽°.*




「…確かに、ふみのがいた屋敷以来だな。
 束の間の休息できる時間だ。
 ゆっくり羽を伸ばさせてもらおう」

「うん…!
 お待たせしてごめんね。温泉、楽しみね!」

「ああ、陽の高いうちから湯に浸かれるとは、
 贅沢なものだな!」

杏寿郎は微笑むも、
奥底に沈めた想いに眉を顰めた。

杏寿郎もふみのと考えていることは同じだった。

“先の約束”をふみのと交わすことができても
それを本当に果たせるのだろうかと。

鬼がいない世界なら、
すぐにでもふみのに求婚を願い出ていた。

しかし代々受け継がれてきた炎柱としての責務があり、
またいつこの身に何が起こるか分からない不確かな現状のまま、
その先の二人の未来を確約してしまうことを
杏寿郎はしたくなかったのだ。

たとえふみのと夫婦になれたとしても、
自分が任務の末、命を落とし、
ふみのを一人にしてしまったらと思うと
安易にその想いは口にできなかった。

共にいるとふみのに誓ったが、
それはつまり、この先のふみのの人生を
自分というものに、縛り付けてしまっているのではないかと、
杏寿郎は時々その思いに、苛まれることもあった。

勿論、後悔など、微塵もない。


ふみのを愛している。


それは何にも変えられない事実だ。

ただ、時々、この先の未来に酷く怯えてしまうのだ。

ふみのの安らかな寝顔を見る度に
次はいつこの愛おしさに触れられるのだろうかと
悲しみに駆られる夜もあった。


鬼のいない世界になれたらと、
杏寿郎は何度も思った。



 ふみのには ありのまま

 何にも囚われることなく

 自由に 生き生きと

 その人生を 歩んで欲しい



杏寿郎のぐっと拳に力が入る。



「…杏寿郎?大丈夫?」

「…ああ、すまない。大丈夫だ」

杏寿郎は知らずのうちに眉を顰めていたことに気付き、
ふみのの声に、はっと我に返った。
ふみのは杏寿郎の手をそっと握った。

「さっきね、廊下の奥に
 書斎を見つけて…本棚があったの。
 たくさんの本があったわ。
 後で一緒に見に行かない?」

ふみのの笑顔に
杏寿郎の顔が綻んだ。

「そうか。読書か…それは良いな。
 湯上がり後、是非見に行こう」

「うん!」

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