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火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】

第3章 生き残った一人の少女




「健蔵さんは、剣道の稽古中に手首を痛めてしまい、
 随分前に辞めてしまったと悔しそうに笑っていた。
 先日、子が生まれたばかりで、と目を細めていた。
 ふみのさんのことを話す彼はとても幸せそうだった」


『女の子が生まれてな。ふみのというんだ。
 本当に、可愛らしくて…あの子は私の希望だ』


「会うたびにいつも嬉しそうに
 ふみのさんのことを話す健蔵さんに
 俺自身も幸せな気持ちになった」


ふみのは目を閉じて、
健蔵の優しい眼差しを思い出す。


ただ、ただ、胸がじんわりとあたたかい。


それは健蔵とみちからの、
愛しいふみのへの愛そのものだった。



ふみのはみちの着物と海の絵を、ぎゅっと抱きしめる。

(とうさま、かあさま、よしの、健一郎。
 わたしは生きている。
 私は、、いまを、生きて、いるんだ。
 これからも、生きて、いくね…っ)

再び、涙がふみのの頬を止めどなく流れた。
それが止まるまで槇寿郎はそっとそばに寄り添ってくれた。






槇寿郎に、何度も深々と頭を下げ、部屋に戻った。


(かあさまの着物、本当に綺麗…。
 海の絵もまた額に入れて飾りたいな…!)

槇寿郎に、なんと感謝の気持ちを伝えていいか分からない。

(このままじゃだめ。
 ちゃんと話せるように、ならなければ)

口を開くが、声が出ない。
声の出し方が分からなくなっていた。


『ふみのさん、焦らなくて大丈夫です。
 ゆっくり時間をかけていいんですよ』


瑠火の言葉を思い出したが、
少しずつ前を向き始めたふみのは
自分自身を奮い立たせていた。





夕食の時、ふみのはいつも通りに、と心掛けたが、
なかなか声を戻せない自分に焦りを感じていた。

「ふみのさん、あまり食事が進んでいませんが、
 どこか具合が悪いのですか?」

心配そうにふみのを見つめる瑠火に
首を必死に左右に良く振った。

(これ以上、迷惑はかけられない…っ)

「そうですか?
 あまり無理はしてはいけませんよ?」

優しく笑いかけてくれる瑠火だったが、
ふみのは焦りからか、うまく瑠火の顔を見れなかった。


そんなふみのの様子を
杏寿郎はじっと見ていた。

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