火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第3章 生き残った一人の少女
あの夜に起こった出来事は現実だったんだと
ふみのはようやく理解できた気がした。
「…あと、これを、見つけて」
槇寿郎が、机の引き出しから出てきたのは、
周りが少し焦げてしまっている厚紙だった。
それを目の前に差し出され、
ふみのは、はっと息を飲んだ。
部屋に飾っていた海の絵だったのだ。
「……っ!!!」
「額は硝子とともに割れてしまっていたので、
絵だけを持ち帰ってきた。
あまりにも綺麗だったので…」
こんなことがあるのだろうか。
自分には何も残っていないと思っていたのに。
みちの着物と、海の絵を見つめていると
静かに涙が溢れてきた。
「すまない…っ。
辛いことを思い出させてしまったっ……」
槇寿郎は、慌てて近くにあった塵紙でふみのの涙を拭う。
ふみのは俯きながら、
頭を左右にぶんぶんと振る。
(きっと、皆が、わたしに、
生きて、と言ってくれてるのかなあっ…)
涙で視界がぼやけてくる。
優しく涙を拭いてくれる槇寿郎は
もう片方の手でふみのの背中をさする。
「…実はふみのさんのお父上、健蔵さんとは、
小さい頃に会ったことがあるんだ」
「…!!!」
槇寿郎は、懐かしむように
ゆっくり、ぽつりぽつりと呟く。
「幼い頃、剣道を習っていてな。
初めての試合で健蔵さんと戦った。
とても強くて、なのにしなやかで、
綺麗な技をたくさん持っていた。
俺はあっさりと負けてしまったよ。
とても、…とても強い人だった」
槇寿郎が言うその強さの意味は、剣道だけではなく、
健蔵自身のことを言ってくれているようだった。
「それから十数年ぶりに再会した。
俺の仕事の警備区域に、
一ノ宮家の近辺も含まれていてな。
その地区について、健蔵さんから情報をもらっていた。
目を見てすぐに分かった、…あの時戦った彼だと」
そんな繋がりがあったなんて、
ふみのは全く知らなかった。