火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第3章 生き残った一人の少女
瑠火はゆっくりとふみのの頭を撫でた。
「なんでも聞いてくださいね。
それと、ふみのさん。焦らなくて大丈夫です。
ゆっくり時間をかけて、いいんですよ」
ふみのの声が出ないことに対して、
優しく、ただ静かに見守ってくれている瑠火の言葉は
ゆっくりとふみのの心に沁みていった。
教えてもらった道順に廊下を進み、
槇寿郎の部屋の襖を叩いた。
はいと槇寿郎の声が聞こえ、
来ることをわかっていたかのように
ふみのさんだねと襖の奥から聞こえた。
ゆっくりと襖を開けると
槇寿郎は本を読んでいた。
さあ、どうぞと、座布団を敷いてくれて
その上にふみのは正座をした。
「来てくれてありがとう。
実は、ふみのさんにこれを見せようか、しばらく悩んだ。
もしかしたらふみのさんのものではないかもしれない…。
でも大切なものかとも思い…持ち帰ってきてしまった」
槇寿郎は、ふみのの前に長方形の木箱を持ってきた。
箱には黒く焦げた後がいくつかあった。
ふみのは目の前に置かれた木箱を不思議そうに見つめ、
そっと蓋を開けて、中身のものに目を見開いた。
綺麗に折り畳まれた
みちの着物が入っていたのだ。
しかも焦げた箇所は全く見当たらなかった。
みちの一番お気に入りだった小花柄が裾に散りばめられた
ほんのりとうすい、もも色の着物。
ふみのも大好きな着物だった。
(こんなことって、あるのっ……?)
目の前の光景に、蓋を持ったままふみのは固まる。
「…あのあと、何度か屋敷に足を運んだ。
何か残っているものはないかと見て回り、
この木箱を見つけた。
綺麗な着物だったので、もしかしたらと思い持ち帰ってきた。
…かえって辛い気持ちにさせてしまったら…申し訳ない…」
槇寿郎が自分のためにここまでしてくれていたことに
ふみのの胸はぎゅっと熱くなった。
ふみのが着物を大切そうに見つめている姿に
槇寿郎は安堵した。
ふみのは着物をゆっくり持ち上げると、
柔らかい手触りと優しい香りにみちを思い出した。
『ふみの。私の可愛いふみの』
みちの声が聞こえてくるようだった。
(ああ、かあさまの、着物だ…っ)