火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第20章 お見舞いと花束
千寿郎がにっこり笑い、
ふみのの手を握ってくれた。
「ふみのお姉様、
おかえりなさい…!」
「…!」
帰る家があり、
誰かが自分のことを待っていてくれる。
ふみのの瞳には、槇寿郎と千寿郎が映り、
横を見れば杏寿郎も緋色の瞳を潤ませていた。
ふみのは再び煉獄家に居る幸せを噛み締めた。
私は ここが好き
ここに ずっと居たい
大切な人がいるこの場所は
私の たからものだ─────…
「只今、戻りました…!
私…、ここが、とっても大好きです…っ!」
ふみのが幸せそうに笑顔を綻ばせる。
それは皆の心にやさしい光を灯すようだった。
空が少しずつ、茜色を濃くしてゆく。
「ふみのさん、
こんなところですまなかった。
家に入ろう」
「あっ、ふみのお姉様!
今日はふみのお姉様がお好きな
揚げ出し豆腐をご用意していますよ!」
「え!本当に…?
嬉しいわ!ありがとう!」
「兄上にも、さつまいも料理を
たっくさん作りましたからね!」
「!! それは楽しみだ!!」
四人は明かりが灯る家に入っていった。
その晩、煉獄家では笑い声が響いていた。
夕餉の後、ふみのは自室を整えていると、
とんとんと襖が鳴り、
「ふみの」と杏寿郎の声が聞こえた。
どうぞと、返事をすると
杏寿郎が部屋に入ってきた。
「急にすまない。
何か、手伝えることはないかと思ってな」
「ありがとう。
でもあと着物をしまうだけだから大丈夫よ。
…この部屋も、そのままにしてくれていて…」
「父上も千寿郎も、
この日をずっと待ち侘びていた。
…何だか、夢を見ているのではと、思ってしまうな」
「うん、本当に。…夢の中にいるみたい。
あの日…杏寿郎が迎えに来てくれたから、
今が、あるのね。
本当に…ありがとう」
嬉しそうに笑うふみのを見て、
杏寿郎は愛おしそうにその頬を撫でた。
「…ふみの」
「ん…?」
二人の顔が近づき、その唇が重なろうとした時、
ふみのが、あっ、と声を上げた。
「…? どうした?」
「私…嘘をついちゃったわ…っ」
「嘘?」