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火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】

第19章 目覚めたその視線の先に ˖☽°.*




杏寿郎は無言のまま、
ふみのをただ抱きしめていた。
杏寿郎の抱擁にふみのは目を瞑り、
頬を胸元に押し当てた。

とくとくと、杏寿郎の鼓動が聴こえてくる。



 杏寿郎が 生きている



ふみのはそれだけで、
もう充分に幸せだった。


「…ふみの」


杏寿郎に呼ばれ、そっと体を離すと、
二人の視線が重なる。

杏寿郎の瞳をこんなにも近くで見たのはいつぶりだろうと
ふみのはただじっとその緋色を見つめた。

「…俺はふみのに…、
 取り返しのつかないことをし…っ」

そう話す杏寿郎の口元を
ふみのはそっと左の指先でおさえた。

「杏寿郎…?
 もうそれは言わないって約束して…?
 …今、私の目の前には、杏寿郎がいる。
 …それだけで私、すごく嬉しいの」

悔やむように顔を顰める杏寿郎の頬を
ふみのの左手が包んだ。
杏寿郎はふみのの左手に自身の手を重ね、
ぎゅっとつよく握った。

杏寿郎は自責の念に駆られるも
ふみのの穏やかな表情にそれは静かに解れていく。

「杏寿郎の怪我は…もう大丈夫?」

「…ああ、胡蝶のお陰で、もうほぼ完治している」

「そっか…ならよかったわ」

にっこりと笑うふみのに
杏寿郎は自身が着ていた錆鼠色の羽織を
ふみのにそっと纏わせ、
包むように抱きしめてくれた。

「…すまない。体が冷えてしまうな」

「ううん、大丈夫よ。ありがとう」 

「…一人で不便はないか?」

「うん、薫子さんが色々と手伝ってくれてて…」


二人の間に沈黙が流れた。

ふみのも杏寿郎もこのまま離れたくなかった。
でもどう切り出していいか分からず、
二人の目線は右往左往してしまう。

「きょ、杏寿郎…?
 …も、もし良かったら、お茶でもどう…?
 お夕飯前だけど…っ」

頬を赤らめて杏寿郎を見上げるふみのの瞳は
その奥に仕舞い込んでいた想いを伝えるかのように
杏寿郎をしかと見つめていた。

「…では、少しだけいただくとしよう」

杏寿郎は潤んだふみのの瞳を見つめ、
溢れ出しそうな想いを抑えながら
居間へと上がった。



ふみのはゆっくりとだが、左腕を駆使し、
湯を沸かし、茶の用意をした。

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