火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第19章 目覚めたその視線の先に ˖☽°.*
ふみのは部屋に戻り、
箪笥の脇に置いてある布の包みに目が留まった。
それを解くと、中にはふみのの折れた日輪刀の刃と
柄が入っていた。
ふみのは柄を左手で握りしめた。
刃が折れている所為もあるのか
今まで握っていた時の重みが嘘のように感じない。
まるで木の枝のように軽く、
その覇気さえも消えてしまったかのようだった。
自分は光の呼吸を使えない
無能な人間になってしまったのだと
ふみのは痛感した。
自分はこのまま静かに、
鬼殺隊を退くしかないのだろうか。
折れた刃先が夕日に照らされ、
天井に光が反射する。
ふみのの頬に、静かに涙が伝う。
その時、折れた方の刃の刃紋が
小さく光ったような気がした。
それに弾かれるように
ふとふみのの脳裏に、あの時の声が蘇った。
『 希(まれ)を 望みを 切り拓け 』
あれは一体、何だったのだろうか。
暗闇に思考を惑わされ、
闇に落ちかけていた自分を
救ってくれた声の正体とは。
(…もしかして、あの声は…光の呼吸の主…?)
ふみのはもう一度、手元の日輪刀を見つめた。
「…“切り拓け”って、…どうすればいいの…?」
ふみのは小さく声をかけるも、
日輪刀からの応答はなかった。
ふみのは日輪刀をそっと抱き寄せた。
すると、玄関の戸を叩く音が鳴った。
(…薫子さん…?)
ふみのは玄関へと小走りで向かった。
しかし玄関の戸に映る人影は薫子より一回りも大きく、
ふみのは、その影にはっと目を見開いた。
(…っ!杏…寿郎…っ!)
ふみのは慌てて三和土に降り、
玄関の戸を開けると
そこには着物姿の杏寿郎が立っていた。
「ふみの…っ!!」
杏寿郎は今にも泣き出しそうに
ふみのを優しく包み込むように抱きしめた。
「杏、寿…っ」
「胡蝶からふみのが屋敷に戻ったと聞いて…。
どうしても会いたくなって、来てしまった…っ」
杏寿郎はふみのの右肩を庇うように
背中に回した腕にそっと力を込め、
ふみのの肩に顔を埋める。
杏寿郎の香りが、ぬくもりが
ふみのの心を溶かしていく。
ふみのも杏寿郎の背中にゆっくりと左腕を回した。