火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第3章 生き残った一人の少女
それからふみのは、槇寿郎達の鍛錬の様子を
庭の近くの縁側から時々見るようになった。
(毎日、すごいなあ…!)
三人の木刀の動きをまじまじと見ていた。
朝から晩まで、ずっと打ち込みをしたり、素振りをしたり。
杏寿郎は、槇寿郎がいるときは試合を願い出て、
容赦なく木刀を奮っていた。
そんな杏寿郎達を、槇寿郎は丁寧に優しく、
時には厳しく指導し、その姿は生き生きとしていた。
杏寿郎は時々感じる視線に、横目でふみのを見た。
なんとなく、胸がどきどきした。
「杏寿郎!よそ見をするな!集中しろ!」
「は、はい!父上!」
カンカンと木刀が鳴り響く。
ふみのはふと、何かできないかと思い立ち、
台所から冷やを持って槇寿郎達に近寄った。
どう渡そうか迷っていると、
杏寿郎がふみのに気付いた。
「ふみのさん!どうしましたか!」
「……!」
ふみのはすっとお盆の冷やを差し出した。
「お冷を持ってきてくれたのですか!」
思いが伝わり、必死にこくこくと頷くふみの。
「ふみのさん、ありがとう!
ちょうど喉が渇いていた!」
「ぼくもです!ありがとうございます!」
「すまないな、ふみのさん」
三人は待ちわびていたかのように
お冷を一気に飲んでしまった。
(喜んでもらえて良かった…!)
ふみのはまた小さく笑った。
その笑顔を杏寿郎は見逃さなかった。
やっぱり可愛らしいと、何度も思う杏寿郎。
ふみのは三人の湯呑みを下げ、台所に戻ろうとしたところ、
後ろから槇寿郎に呼び止められた。
「ふみのさん、体調はもう大丈夫そうか?
まだどこか痛むところはあるか?」
優しく聞く槇寿郎の言葉に
ふみのは安心したように首を横に振った。
「そうか、ならよかった!
あと、ふみのさんに、渡したいものがある。
時間がある時で構わない。いつでも声を掛けてくれ」
少し間を置いて、ふみのはこくりと頷く。
槇寿郎は笑顔でその場を後にし、
また鍛錬に戻っていった。
(なんだろう…?)
思い巡らせながら、三人の湯呑みを洗った。