火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第18章 無限列車
「そうか。俺も弱い人間が大嫌いだ。
弱者を見ると虫酸が走る」
杏寿郎と鬼の周りには、
静寂だが迫り狂うほどの威圧が漂う。
しかし杏寿郎は冷静にその鬼を見つめていた。
「俺と君とでは、
物ごとの価値基準が違うようだ」
「…では素晴らしい提案をしよう。
お前も鬼に、ならないか」
鬼は杏寿郎を見つめ、にたりと微笑む。
「ならない」
杏寿郎は更に鋭い視線を鬼に向ける。
「見れば解る…お前の強さ。柱だな?
その闘気、練り上げられている。
至高の領域に近い」
「…俺は炎柱、煉獄杏寿郎だ」
「俺は猗窩座。
杏寿郎。なぜお前が
至高の領域に踏み入れないのか
教えてやろう。
…人間だからだ。
老いるからだ。
死ぬからだ。
…鬼になろう、杏寿郎。
そうすれば、百年でも二百年でも
鍛錬し続けられる。強くなれる」
猗窩座は淡々と、
杏寿郎を招き入れようと誘(いざな)う。
「…老いることも、死ぬことも、
人間という儚い生き物の美しさだ。
老いるからこそ、死ぬからこそ、
堪らなく愛おしく、尊いのだ。
…人は愛を知って死んでいく、
儚くも、…強い生き物だ」
杏寿郎はその鬼、猗窩座から
視線を片時も逸らさず
儼乎たる面持ちで話し続けた。
「この少年は弱くない。侮辱するな。
俺は如何なる理由があろうとも
鬼にならない」
(煉獄さん…っ)
炭治郎は杏寿郎を見上げた。
夜の暗闇に染まる冷たい夜風が辺りを掠めていく。
「…そうか」
猗窩座の瞳が静かに伏せていく。
「術式展開 破壊殺・羅針───」
轟音が鳴り響き、
猗窩座の足元には雪の結晶の模様が
地面に青白く刻まれていく。
「…鬼にならないなら、殺す───」
猗窩座は杏寿郎を目掛けて凄まじい猛威を奮う。
杏寿郎は、その迫り来る猗窩座に全力で刀を振った。
杏寿郎と猗窩座による
熱き死闘が幕開く─────
「ふみの様、本日は非番ですが。
何故隊服を着ていらっしゃるのですか?」
薫子はふみのの新しい隊服を持って、
ふみのの屋敷にやってきたところだった。
「あ…薫子さん!
隊服を持ってきてくれてありがとう。
…何だか、変な雰囲気がして。
少し見廻りに行ってくるわ」