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火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】

第16章 霞ゆく光、産屋敷家との出会い




「…荷物は布を被せておいたので
 濡れてはいないと思いますが…。

 伝令につきましても、これまで通り
 鎹鴉を通してご連絡致します。
 何かあれば直接お伺い致しますので」

「ありがとうございます。
 …今日は色々とお手間をとらせてしまい、
 本当にごめんなさい」

「…いえ、これも隠の勤めですので」

口調が殆ど変わらずに一定に話す隠は
感情というものが一切感じられない。

「お館様への屋敷へ向かう際は、
 私がご案内致します。
 明日、見廻り担当地区についてお伝えに参ります」

「分かりました。
 あと最後に…、
 お名前をお伺いしても…いいですか?」

隠は目を伏せ、躊躇いながらも
その名を告げた。

「……藤崎薫子(ふじさきかおるこ)と
 申します」

「薫子さん…。
 今後ともよろしくお願い致します」

隠は一礼すると、さっと姿を消した。



ふみのは荷物を整理して、
身の回りを整えていった。

といっても、
元々それほど多くの荷物はなかったので
数冊の本と、着物を箪笥に仕舞うぐらいだった。

屋敷には、生活していく上で
必要最低限の物が既に揃えられていた。
薫子が事前に手配をしてくれていたのだ。


そして最後に、
風呂敷に包まれた海の絵をそっと解いた。

何度見ても美しい群青色の波の色は
ふみのの懐かしい記憶を呼び覚ましていく。

その波の煌めきは、
今まで過ごしてきた杏寿郎との時間をも思わせる。

杏寿郎から貰った
濃紺の額縁をそっと撫でた。


 もう 想うことが ないように


ふみのは風呂敷で海の絵を再度包み、
箪笥の奥に仕舞い込んだ。


ふみのから、涙はもう流れなかった。
感情の色が更に薄れていくようだった。

杏寿郎の想いを知りながらも
ふみのは自分の想いを全て封じた。


 もう誰も想うことなんて、したくない

 目の前の鬼さえ、斬っていればいい


 柱として 人々のために

 私は生きていく


ふみのはその日からも
無心のまま一心不乱に
鬼を斬り続けていった。


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