火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第16章 霞ゆく光、産屋敷家との出会い
「…杏寿郎の気持ちには、…応えられない」
ふみのは杏寿郎を傷つけると分かっていながら
その言葉を吐いた。
だが杏寿郎は、その言葉を押し返すように
燃える眼光をふみのに向ける。
「…ふみのがどう思おうと、
俺の気持ちは、変わることはない」
杏寿郎は渾身の想いだった。
自分がどれほどふみのを想っているか、
分かってもらいたかった。
ふみのを離したくない。
またあの笑顔が見たい。
何がふみのをここまで苦しめ、
追い込んでいるのか。
少しでもふみのの力になりたいと
そう思わずにはいられなかった。
杏寿郎は何もできない歯痒さに苦しめられる。
しかしふみのは杏寿郎の想いを
冷たく振り払った。
「……もう、私のことは忘れて。
今まで…本当にありがとう」
ふみのはそう吐き捨て、
門の外へと駆け出した。
「ふみの…っ!!」
ふみのは振り返ることもせず、
隠の元へ向かった。
杏寿郎は雨の中消えていく
ふみのの後ろ姿を
ただ見つめることしかできなかった。
杏寿郎は言葉にできない哀しみに打ち拉がれる。
ふみのを守りたい、傍にいたいと
ただそれだけなのに
悲しくもその想いは叶わない。
ふみのを想う杏寿郎の気持ちは
この雨に混じるように
虚しくも掻き消されていく。
激しく振る雨の中、
杏寿郎は一人立ち竦んでいた。
二人の気持ちはすれ違ったままに、
ふみのは煉獄家を去った。
暫くすると、
傘をさした千寿郎が戻ってきた。
「…兄上!!
こんなところで何を…?!
風邪を引いてしまいます…っ」
千寿郎は杏寿郎へと駆けると
持っていた傘を傾けた。
静かに項垂れる杏寿郎に
千寿郎は心配そうに声をかける。
「兄上…?
どうされたのですか…?」
「…ふみのが、来たんだ」
「!! ふみのお姉様が…!?」
「…しかし此処にはもう、
戻らないとのことだ」
「…っ、そんな…」
二人は哀しみの雨に打たれるように
家の中に入った。
ふみのは屋敷に戻ると
隠が用意してくれた湯に浸かり、体を温めた。
先程の雨が嘘だったかのように
晴れ間が差していた。