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火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】

第16章 霞ゆく光、産屋敷家との出会い




「…柱になると…決めたのだな」

「……」

「…ふみの」

杏寿郎は、物悲しげにふみのを呼ぶ。

「…俺はふみのの傍にいて
 寄り添いたい。…それだけなんだ」

杏寿郎の声が
ふみのの心に入り込んでくる。

ふみのは心が揺さぶられそうになるのを
必死に堪えていた。

「…手紙にも書いた通り、
 今は一人になりたいの」

ふみのは杏寿郎に背を向けたまま話した。

「…ふみの、
 何か俺に…隠してはいないか」

「……っ」

杏寿郎がふみのに歩み寄ろうとした時、
隠が割り込むように話を遮った。

「…炎柱様、もう宜しいでしょうか」


ぽつぽつと冷たい雨が
足元を濡らし始めていた。


「…すみません。
 すぐに終わりますので、
 少しだけ待って頂けませんか?」

ふみのは静かに隠に訊く。

「……承知致しました」

隠は玄関に取り残された
ふみのの荷物を持ち、門の外へと出た。

次第に雨足が強くなる。


もう此処にいてはいけないのに。

ふみのは縛られたように
その場から動けなくなった。

杏寿郎は俯くふみのに近づき、
手首を掴むと、ゆっくりと杏寿郎の方へと向かされた。

「…ふみのに会えたのに
 何故、また離れなければならない…?」

「……」

「頼む。…俺の傍にいてくれ」

杏寿郎は両腕で
ふみのを強く抱きしめた。

激しく振る雨音だけが二人の鼓膜を鳴らし、
髪の毛先から雫が滴り落ちていく。

「……杏寿郎、離して…」

「…こんなにも愛おしい人が
 目の前にいるのに、
 離せるわけがないだろう…っ。
 
 …ふみのはもう、
 俺への想いはないのか…?」


その言葉にふみのの手が
杏寿郎の背中へと伸びかける。



 違う そんなこと あり得ない


 でも 貴方のことを

 そう想ってしまったら

 巻き込んでしまいそうで

 怖いの


 お願い

 お願いだから

 これ以上

 私を


 想わないで─────…っ



頬に涙が伝う。

ふみのは腕を静かに下ろし、
杏寿郎から自ら身を離した。

激しい雨はふみのの頬を濡らし、
その涙は雨粒と共に消えていく。

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