火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第16章 霞ゆく光、産屋敷家との出会い
ふみのはぐっと歯を食いしばり
その思い出に蓋をするように
荷物をまとめ、玄関へと向かった。
ふみのが玄関の戸を引こうとした途端、
その戸が開かれた。
ふみのは目を見開く。
「ふみの……?!」
「杏寿郎……っ」
杏寿郎が立っていたのだ。
ふみのは目の前の光景に驚愕し
その場に固まる。
両手から荷物が落ちた。
気付くとふみのは
杏寿郎に強く抱きしめられていた。
「…ふみの…っ、
無事で良かった…っ」
ああ 杏寿郎の香りだ
いつもと変わらない お日様の 香り
あたたかく やさしい この香りを
どんなに 求めていただろう
目の前にいるのは
杏寿郎だ────…っ
ふみのの瞳が潤む。
抱きしめたまま、杏寿郎は口を開いた。
「…今まで、何処にいた…?」
「……」
杏寿郎の手がふみのの頭にやさしく伸びる。
「…何故、俺を避け続ける。
気付かぬうちにふみののことを
俺は傷つけてしまっていたのか…?」
「…っ!
違う!そんなこと…っ!」
ふみのは顔を上げ、
杏寿郎を見た。
「…では何故、俺から離れた」
「…そ、それは…っ」
杏寿郎の悲しそうな目が
ふみのの返答を待っていた。
「…ふみの。
一人で抱え込まず、
俺を…どうか頼って欲しい」
「……っ。
…もう…行かなくちゃ。
杏寿郎…離して…っ」
ふみのの言葉を無視するように
杏寿郎は更にふみのをきつく抱きしめた。
「光柱様は此方に、いらっしゃいますか」
「「 ! 」」
外から、先程の女性の隠の声がした。
杏寿郎の腕が緩んだ隙に
ふみのはすり抜けるように
外と駆けていく。
「ふみの!!」
その後を杏寿郎が追う。
外にいた隠が、呆れたような目つきで
ふみのを見た。
「…光柱様、何方に向かわれたのかと」
「ごめんなさい。荷物を取りに…」
「そんなことでしたら、私どもがすること。
貴方様は、もう柱なのです。
それ以上にやるべきことがございます。
…もう少しその自覚をお持ち下さいませ」
その隠はふみのに異様にきつく当たった。