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火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】

第16章 霞ゆく光、産屋敷家との出会い




しかし、こんなにも
身勝手なことばかりしているのだ。
もうとっくに愛想を尽かされているに違いない。

ふみのは大きく深呼吸をして、
煉獄家の門を潜った。



「ご、御免ください…」

そうっと戸を開けるが、
誰もいないのか返事はなかった。

槇寿郎の草履だけが置かれており、
千寿郎と杏寿郎の草履がなかった。

(杏寿郎は任務かしら…。
 千寿郎くんも出かけているのかな…)

久しぶりに見る家の中は
今までと何も変わらずに
あたたかくふみのを迎えてくれるようだった。

誰の許可を取らずに、
勝手に家に上がり込むことに
ふみのは少々戸惑ったが、
小走りで自室へと向かった。



襖を開けると
そこにはいつもと変わらない、
自分の部屋があった。

千寿郎が掃除をしてくれているのか、
埃一つ見当たらない。

その千寿郎の姿を思い浮かべ、
ふみのは心を締め付けられた。



あの夜、槇寿郎に助けられ、
瑠火が付ききりで看病をしてくれた。

そして杏寿郎と出会い、
緊張しながらも自分に声をかけてくれたこと。

夜月が美しく照らす縁側で、
いつか海を見に行こうと約束も交わした。

声が戻り、杏寿郎と毎日沢山の話をした。
あまりの楽しさに、
眠るのさえ惜しい夜が、幾度もあった。

悲しみと悔しさで泣く時も
その涙をそっと拭ってくれた。

そして少しずつ芽生えていく
杏寿郎への想いに気付いた。


いつも、どんな時も支えてくれて、
傍にいてくれた杏寿郎。

逞しく、どんな困難にも屈せず、
優しさが溢れる笑顔に、
どれほど救われていたか。


杏寿郎が、憧れだった。

心から愛おしいと想った。


そして、この部屋で
杏寿郎と愛し合った。

熱を含んだ声で
何度も、何度も名前を呼ばれ、
優しくも強く、抱き締めてくれた。

その時の杏寿郎の炎えるような瞳が
彷彿として蘇る。


あの幸福な時間は、一生忘れない。


杏寿郎を、守ると誓ったのに。

こんなにも遠い存在になってしまった。

でも、これでいい。
これで良かったのだ。


 杏寿郎が生きていてくれるのなら
 それだけで、もう私は幸せだ…────


杏寿郎と過ごした思い出が
走馬燈のように駆け巡り、
ふみのの視界が滲む。


縁側にゆれる午後の日差しが
一層眩しく感じた。

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