火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第16章 霞ゆく光、産屋敷家との出会い
蝶屋敷を離れて、数日後、
鬼殺隊の共同墓地にふみのの姿があった。
蓮の墓前に腰を下ろし、百合の花を手向ける。
線香から立ち上る白い線状の煙に
白檀の香りが舞う。
静かに手を合わせ、目を閉じる。
「蓮、最後に会いに来てくれてありがとう。
…必ず鬼のいない世界にするからね」
目を開けると、供えた百合が風にそっと揺れた。
「…また来るね」
ふみのは欣善からの手紙を
胸に握りしめていた。
ようやく封を開けることができた
欣善からの手紙には一言、こう綴られていた。
〈 蓮のことは
決してふみのさんの所為でない。
また、顔を見せに来て欲しい。 〉
だがふみのは
自分自身を許すことができなかった。
ふみのは、連日のように
一心不乱に、任務に勤しんだ。
非番の日でさえ、
夜になれば刀を奮った。
この数ヶ月、ふみのは人との関係を全て断ち切り、
ただ無心のままに、何十体もの鬼の頚を斬り続けた。
今、自分の使命は、
この世に存在する全ての鬼を滅し、
大切な人たちの生活を守っていくこと。
この揺るぎない信念が
ふみのの心に、
僅かな希望の光を灯していた。
ある一羽の藤色の房を首に巻きつけた鎹鴉が
生い茂る木の枝からふみのを見つめていた。
暫く様子を見ていた鎹鴉は
大きな屋敷へと羽ばたいていく。
その主の手に舞い降りると
また上空へと飛んでいった。
「…一ノ宮ふみの。
どうしても君に会って、話しをしなければ」
その主──産屋敷耀哉は、
静かに呟くと、その目をゆっくりと閉じた。
その日も、陽が昇り始めると、
闇は音もなくその姿を消していく。
昨夜も、ふみのは
寝静まった頃の民家を襲おうとしていた
数体の鬼を捕らえ、頚を斬り落とした。
「本当に、ありがとうございました…っ」
赤子を抱え、涙ぐむその両親は
ふみのの手を取り、礼を伝えた。
「…いえ、お怪我もなく、
本当に良かったです」
赤子の小さな手がふみのに伸び、
うー、と可愛らしい声をあげた。
ふみのが手を伸ばすと
赤子の小さな掌は
ふみのの人差し指を握った。