火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第16章 霞ゆく光、産屋敷家との出会い
「煉獄さんのところへは
本当に戻らないのですか…?」
蝶屋敷を出る日、最後の診察時に
しのぶは心配そうにふみのに訊いた。
「…はい」
「理由は…ご自身の呼吸のことですか?」
しのぶに物の見事に言い当てられる。
思わずふみのの表情がこわばった。
「…いえ、今は、
一人に…なりたくて」
「…そう…ですか」
「…長い間、本当にありがとうございました。
我儘もたくさん聞いて下さって、
本当に感謝しています」
深く頭を下げ、
ふみのは診察室を退出しようと
扉の取っ手に手を掛ける。
「ふみのさん」
ふみのは振り返ると
しのぶが一封の包みを差し出した。
「ふみのさん、
こちらを預かっていました。
此方を出るときに、ふみのさんに
渡して欲しいと」
「…何方から…」
「…蓮さんの育手をされていた
菟田野欣善様です」
「…っ!」
欣善とは、指で数えるほどしか
ふみのは会ったことがなかった。
ふみのは、
恐る恐るそれを受け取った。
「何かあればまたいらしてくださいね。
ふみのさんは…、
決して一人ではありません」
「…っ」
その言葉にふみのは
はっと目を見開く。
『…ふみのは、一人ではない。
俺がいる。千寿郎も。
皆、ふみのの側にいる』
『ふみの
いつも側にいるからね
忘れないでね』
(杏寿郎…っ、蓮…っ)
懐かしい声がふみのを揺さぶる。
「しのぶさん…、
本当にありがとうございました」
ふみのは熱くなる目頭を隠すように
しのぶにもう一度頭を下げ、蝶屋敷を後にした。
ふみのは煉獄家には戻らず、
その足で藤の家に向かった。
以前任務の際に、
その藤の家に一度泊まったことがあった。
当面の間住まわせて欲しいと頼み、
頭を下げると快く受け入れてくれた。
煉獄家には一通の手紙を
杲に届けてもらった。
しばらく家には戻れないことと
身寄りのない自分を置かせてくれた感謝を
そこに綴った。
杏寿郎はふみのの手紙を受け取ると
そのまま杲に返事を持たせた。
どうか戻ってきて欲しい、
今は何処にいるのか、
どうしても会って話したいと
早急に筆を走らせた。