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火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】

第16章 霞ゆく光、産屋敷家との出会い




ふみのはその日を境に
全ての感情を失ったかのように
口数も減り、別人のように変わってしまった。

今までのふみのの
朗らかな笑顔はどこにもなかった。

しかし、それは本心ではなかった。

そうするしかなかったのだ。

嫌われても構わない、
避けてもらうためにも
心を閉ざしていった。


杏寿郎や千寿郎、蜜璃が来ても
扉の向こうで面会を断った。

杏寿郎達は豹変してしまったふみのを
酷く心配した。


その日も、杏寿郎はふみのに会いに
蝶屋敷に足を運んでいた。
ふみのの病室の扉をそっと叩く。

「…ふみの、頼む。
 ふみのと話しがしたい」

沈黙が続く。

「…ふみの」

もう一度名前を呼ぶと
静かに返事が返ってきた。

「……帰って。
 あまり気分が、良くないの」

「一目でいい。
 ふみのの顔が見たいんだ」

「……お願い、帰って」

杏寿郎は扉にそっと手を添える。

杏寿郎は分かっていた。
扉のすぐ向こうに、ふみのがいることを。

扉の向こうで
ふみのは静かに泣いていた。


扉にそっと手を添えながら───…


「…また来る」

そう言い残して
杏寿郎は帰っていった。


ふみのはその場に座り込んだ。

「…ごめんね…っ、
 ごめんね、杏寿郎…っ」

ふみのの頬に溢れる涙。

弱まることのない
冷たい雨のように降る哀しさが
二人の心を濡らしていく。



ふみのは体力が完全に
回復していないのにも関わらず、
しのぶに機能回復訓練を申し出た。

何度もしのぶに止められたが、
今も、この瞬間も、この世を彷徨う鬼達が
自分に関わる大切な人達の命を奪おうと
何処かで牙を唸らせているのではと思うと
気が気でなかった。


 もう誰も 失いたくない


ふみのの気持ちは
その一心だった。



しのぶからの治療と訓練の甲斐あって
ふみのは、任務を開始できるまでに回復した。

ふみのは本部に、無理を承知の上、
自分が受け持つ任務を
全て単独任務にして欲しいと願い出た。

他の隊士を巻き込んでしまうのが怖かったからだ。

何か注意を受けるかと思ったが、
特にその理由を問われることはなかった。

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