火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第16章 霞ゆく光、産屋敷家との出会い
ふみのは突然、過呼吸に襲われた。
息をゆっくり吐いているのに
一向に治まらない。
(息が…できない…っ)
ふみのは
寝台から雪崩れ落ちた。
バタンと床に音が響くと
その音を聞いたしのぶが
ふみのの病室に駆け込んできた。
「ふみのさん…っ!?」
苦しそうに胸元を握りしめるふみのに駆け寄ると
しのぶは自分の腕に抱き寄せた。
「ふみのさん、大丈夫ですよ。
ゆっくりと息を吐き出してください」
しのぶに言われた通りに
ふみのは長く息を吐き出した。
何回か繰り返すと
ふみのの呼吸が落ち着いてきた。
「…ごめんなさい、しのぶさん…、
たくさん迷惑をかけて…」
「そんなことありませんよ。
何処か体を打ってはいませんか?」
「…はい、大丈夫です」
しのぶはふみのの体を支え、
寝台へと寝かせてくれた。
「…少し貧血気味でしょうか。
薬をお持ちしますね」
にこりと優しく微笑むしのぶに
ふみのの気持ちは解れていくようだった。
少しだけお待ちくださいねと
しのぶは部屋を出ていった。
ふみのは寝台に蹲り、
光の呼吸のことについて思い巡らす。
呪いの正体は、一体何なのか。
何が、目的なのか。
過去にこの呼吸を使った隊士が
命を落としているという事実から、
その全貌は全く分からないが
何か隠された謎めく呪いが
少なからず存在しているのかもしれない。
しかし、呪いを解く術はない。
以前読んだ煉獄家にあった
光の呼吸の指南書らしき本にも
呪いについては、一切記されていなかった。
この呪いの標的が、
決して自分だけとは言い切れない。
自分が光の呼吸を使うことで
呪いとなる要因を呼び起こし
周りの誰かに、そして想う人にも
その呪いがかかってしまうのであれば。
私は杏寿郎から
離れなければ
側にいてくれる皆とも
距離を置かなければ
杏寿郎を想うことが
愛おしいと想うことが
彼の命をも
奪ってしまうかもしれない
私は杏寿郎の側に居てはいけない
杏寿郎のことを
これ以上想えば
何か危害を加えてしまう─────
ふみのはゆっくり体を起こし、
汗で滲んだ掌をきつく握りしめた。