火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第16章 霞ゆく光、産屋敷家との出会い
ふみのが蝶屋敷で治療を受け始めて
半月余りが経っていた。
体調は徐々に回復しつつも
食欲不振が続いていた。
ふみのは病室に篭り、
日に日にその笑顔は薄れていった。
千寿郎は数日置きに、見舞いに来てくれた。
杏寿郎と蜜璃も任務の合間に来てくれたが、
ふみのから話すことは殆ど無くなった。
体が回復していくに連れて、
下弦の鬼との争闘が鮮明に蘇ってくる。
刃物が擦れ合ったような金属音
締め付けられた胸の痛み
そして
重たくなった日輪刀───
日輪刀に、何が起こったのか。
ふみのの脳裏に、その謎が駆け巡る。
あの時、力尽くでも
刀を振っていれば
蓮の命は助かったかもしれない
後悔の念が
ふみのの心を蝕んでいく。
何故、日輪刀は、
鉛のように重たくなったのか。
もしや、その刀の変化が
光の呼吸の“呪い”の予兆なのか。
まさか、そんな─────…
ふみのの脳裏を
悍ましいほどの予覚が過ぎる。
あの時、
自分が受けるべき呪いが
蓮に───
呪いの矛先が
自分ではなく
心から想う人へと
向けられてしまうのだとしたら
そのような根拠は勿論何処にもない。
しかし、それを否定する根拠もない。
光の呼吸の“呪い”とは一体───
ふみのは
震える肩を腕で抱えた。
指先まで震え、
氷のように冷たくなっていく。
額から滲み出る冷汗と
激しい動悸が治まらない。
その時、
廊下を歩く男性の声が聞こえてきた。
「…やっぱり、本当だったんだな」
「何がだよ?」
「呪いだよ呪い」
「呪い?何それ」
「え?お前知らねーの?
ふみのさんの呼吸のこと。
呪われた呼吸って言われてんだぜ?」
「えっ怖っ…、何だよそれ…っ」
「…今回蓮さん亡くなったのも
その呪いの所為って、言われてるらしーぜ?
…ふみのさんと関わると、呪われるって」
「ほんとかよ…。
確かにふみのさんと蓮さん、
すっげー仲良かったもんな…」
「…てかふみのさんの病室
ここらへんだったけか?!」
「えっ嘘っ!
聞こえたかな…っ!?」
その声は逃げるように
廊下を駆けていき、声も遠ざかっていった。