火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第15章 下弦の壱、そよぐ勿忘草 ˖☽°.*
ふみのはその勿忘草に触れようと
側に屈み、花に手を伸ばす。
勿忘草が、風に揺れた。
囁くよりも小さい声が
ふみのの耳元を纏う。
『 ふみの
いつも側にいるからね
忘れないでね 』
なにか、ふわりとしたぬくもりに
包まれたような気がした。
「…蓮、ごめん…っ。
本当に、ごめんね…っ」
どんなに謝っても、
自分の行いは償えない。
蓮は戻ってはこない。
ふみのの涙が
勿忘草の花弁を濡らした。
「ふみの!!」
任務から戻ったばかりの杏寿郎が
ふみのに駆け寄る。
空には杲と要が舞っていた。
「何処に行ったのかと心配した…っ。
…怪我に障る、…蝶屋敷へ戻ろう」
杏寿郎は自身の羽織を
地面に座り込むふみのにかけた。
「…蓮の…葬儀は…?」
俯きながら、
口を開くふみののその表情は
酷くやつれていた。
「…昨夜…執り行われた」
「……そう」
蓮の最期にも、自分は立ち会えなかった。
その事がふみのを更に追い詰める。
「…ふみの。
今はしっかり体を休め、治さなければ」
杏寿郎はふみのを抱きかかえた。
この数日で、
酷く痩せ細ってしまったふみのを
杏寿郎は案じた。
衰弱し、弱り果てるふみのに
自分ができることは何かと
ただ只管、杏寿郎はそれだけを考えていた。
ふみのは憔悴しきっていた。
大切な家族も、
大好きな蓮も、目の前で失った。
何もやり遂げられていない
無力な自分
私は結局 何一つ…守れていない
自分だけが生き残っていく罪悪感に
ふみのは襲われる。
冷え切っていく心とは反対に
あたたかい杏寿郎の体温が
ふみのの心に突き刺さる。
「ふみの…」
ふみのに心を痛める杏寿郎の
やさしく呼ぶ声が、胸を締め付けた。
ふみのは杏寿郎の胸に顔を押し当て
声を殺して、泣いた。
杏寿郎はふみのを更に強く抱きしめ
急足で蝶屋敷へ向かった。
漸く結ばれたふみのと杏寿郎に
その試練は襲いかかる。
未知なる光の呼吸が
ふみのと杏寿郎の絆を
大きく揺るがしていく─────