第15章 下弦の壱、そよぐ勿忘草 ˖☽°.*

「蓮！！！」

ふみのとしのぶが息を切らしながら
蓮の元へ駆け寄ってきた。

「蓮、今しのぶさんが薬を…っ、
　……蓮？…蓮！！蓮！！！
　目を開けて！！お願い…っ！！」

蓮の手を握るが、反応はなく
必死に呼びかけるも
蓮は目を閉じたままだった。

「…そんな、蓮さんが…っ」

しのぶも悔しそうに涙を堪え、
ふみのの後ろで俯く。

ふみのは目の前が真っ暗になった。

その頬に静かに涙が伝う。

ふみのはその場に崩れ落ちた。





「ふみの！！！」


そこへ杏寿郎が駆けつけ、
目の前の光景に愕然とした。

「───…っ！
　…冨岡の腕の中にいるのは…っ、
　當間少女なのか…？」

「…ああ」

義勇は蓮の前髪を
哀しげに、愛おしそうにそっと撫でた。


「…私の、せいなの」


ふみのがぽつりと呟く。

「…！？
　ふみの、何を言っ…」

「…私がもっと早く、
　蓮を避難させていれば、
　こんなことにはならなかった。
　…途中で私の失態があって、
　蓮が、私を庇ってくれて…。
　…こんな取り返しのつかないことに
　なってしまった…っ」

ふみのは俯きながら、
肩を震えさせ、涙を流していた。

「ふみのさん…」

しのぶがふみのの肩を抱きしめる。

「ふみのさんも
　酷い怪我をされています。
　蝶屋敷へ行きましょう。
　早急に手当てをしないと、
　鬼の血鬼術により
　更に悪化してしまいます…っ」

微動だにせず俯いたままのふみのを促すように
しのぶは声を掛ける。

杏寿郎もふみのの前に膝を付き、
ふみのの顔を覗く。

「ふみの…胡蝶の言う通りだ。
　今は、手当てを受けなければ」

杏寿郎の声にふみのは顔を上げた。
その目は空で、何処を見ているのか分からない。

「…杏寿郎、
　…私…どうしていいか、分からない…」

そう言い残し、ふみのは
杏寿郎にもたれるように倒れた。

「ふみの…？！ふみの！！」

ふみのはそのまま気を失った。



朝を知らせるかのように
周りの木々に、陽光が差し込む。

ふみのは鬼の毒により高熱が出てしまい、
その日から三日後に目が覚めたのだった。