火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第15章 下弦の壱、そよぐ勿忘草 ˖☽°.*
(……っ!?
刀が、持ち上がらない…っ)
日輪刀の刃先は地面についたまま、
必死に刀を振ろうとするも、
びくともしない。
(どうして…っ、なんで…っ?!)
ふみのは焦り、
顔を上げると懦倥の攻撃は目の前まで
差し迫ってきていた。
「水の呼吸 拾弐ノ型
花蔟(はなむれ) 落花流水!!!」
ふみのの後ろで構えていた蓮の刀から、
桜色の蓮(はす)の花弁と
大きな水飛沫がうねりを上げた。
懦倥にもその飛沫が襲い掛かり、
水飛沫を物ともせず貫通する針は、
花弁がその動きを食い止めた。
怪我の痛みを堪えて
刀を振った蓮は
その場に崩れ落ちた。
「蓮…っ!!!」
「…ご、ごめ…っ」
ふみのは蓮に駆け寄り、
体を支えた。
「蓮…っ早く鬼の見えないところに…っ」
「っっ!!!
ふみの!!!!!」
蓮が勢いよく
ふみのに覆い被さった。
「…っ!?蓮…っ!?」
ふみのは一瞬、
何が起こったのか分からなかった。
顔を上げ、覆い被さる蓮を見ると、
ふみのは言葉を失った。
蓮の腹部に
懦倥の針が刺さっていたのだ。
「れ、蓮…っっ!!!」
蓮は苦しそうに、
腹部を手で押さえ、
そのまま仰向けに寝転ぶと
自身で針を抜き取った。
「ぐっ…っ」
余りの激痛に
蓮は顔を歪ませる。
「蓮…っ蓮…っっ」
ふみのは急いで、
自分の羽織を蓮の腹部に当てた。
腹部からの出血が酷く、
羽織は蓮の鮮血で赤く染まっていく。
「ちっ…上手く交わしやがって…。
まあ次で蹴りをつけてやるよ…」
懦倥はくくくと
喉を鳴らしてほくそ笑んでいた。
「俺の針は最強だからなあ。
小一時間もすれば簡単に死ぬぞお?
…お前達の悶え苦しむ顔を見ながら
その肉を喰ってやるよ…!!」
ふみのは懦倥を
刺し貫くほど睨みつけた。
「……お前の頚を、斬る」
ふみのはまだ重さが残る日輪刀を
引きずるように持ち、
無心で懦倥に向かって駆け出した。
「無駄なことをするなあ…?
血鬼術 銀の糸染(ギンノシセン)──」
懦倥の手から飛ばされた針の表面には
更に複数の棘を纏っており、
ふみのを目掛けて
雨のように振り落とされる。