火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第3章 生き残った一人の少女
「数日眠ったままで…っ
本当に良かった…っ」
その女性は涙ぐんでいるようだった。
(この人は誰だろう…)
ただその女性をふみのは見つめると、
はっとするように女性はふみのに話しかける。
「ごめんなさい、名前を言っていませんでしたね。
私は煉獄瑠火と申します。好きに呼んでくださいね」
紅の瞳が美しく、引き込まれそうだった。
綺麗な人だなとふみのはまじまじと瑠火を見た。
「どこか痛むとことはありますか?」
「……」
「ここは安全です。
何か困ったことがあったら何でも言ってくださいね。
あと、食べたいものは、ありますか?」
「……」
声が出ない。
出そうとしても、声がつっかかるような感じがした。
沈黙したままのふみのに
瑠火は優しく微笑んだ。
「そうだ、お水を持ってきますね、すぐに戻ります」
ふみのの返事を聞く前に、
瑠火は部屋を出て行ってしまった。
(…あの夜は、夢ではなかったんだ。
もしかして、この家の人に助けてもらったのかな)
少しずつ記憶を辿る。
(あの夜、鬼になった徳廣に一族中が襲われた。
…とうさま、かあさま、よしのと健一郎。
皆一遍にいなくなってしまった。
私一人だけ生きている、生き残ってしまった。
これから生きていく意味なんて、あるのかな)
ふみのの気持ちはどんどん沈んでいき、
生きる希望が遠のいていくように感じた。
世界から色が消えていくとはこんな感じなのだろうか。
体に力が入らず、気が抜けていくようだった。
するとまた襖がとんとんと鳴り、
瑠火が部屋に入ってきた。
「お白湯を持ってきました。
それと…苺は食べられますか?」
お盆の上には、湯呑み茶碗と
真っ赤な苺が小さく切り揃えて盛り付けてあった。
「……!」
「苺は、好きですか?」
瑠火に聞かれて、ふみのはこくこくと頷く。
よかったと瑠火は笑い、
寝たままのふみのの口元に苺を運んでくれた。
ぱくっと食べると、
甘さと程よい酸味が口いっぱいに広がる。
(……美味しい……っ!)
何度も食べたことがあったはずなのに、
今まで以上の美味しさに
体が満たされていくのを感じた。
そう思った途端、ふみのの目からは
大粒の涙が次々にこぼれ落ちた。