火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第15章 下弦の壱、そよぐ勿忘草 ˖☽°.*
「…あ、あの、義勇さん、これ…」
触れようにも触れられない義勇の手に
蓮はどぎまぎしてしまう。
「…また寛三郎を飛ばす」
「…その時はまた、稽古に参ります…が、
〜〜こ、この手は何ですかと
聞いているんです〜…っ」
義勇は眉尻を下げて笑うと、
蓮の額をぽんぽんと撫でた。
「もうっ義勇さんっ!」
蓮は嬉しくも、むぅっと義勇を見ると
また蓮の額をそっと撫でた。
「…稽古を再開するぞ」
「〜〜〜っっ」
この日は、陽が傾くまで稽古が続いた。
義勇の助言を元に、
蓮は少しずつ、独自の型を習得していった。
蓮の恋想う、淡くも鮮やかな気持ちが
水の呼吸を、更に美しく開花させていく。
二人の恋は、
陽に伸びる花のように
少しずつ花弁を開かせる。
二人の終始楽しそうなやりとりを
寛三郎と月光は木の上から
こっそりと見ていた。
杏寿郎が任務に出てから
半月は経っていた。
こんなにも家に戻らないのは
初めてのことだった。
杏寿郎から五日前に届いた手紙が
最後になっていた。
返事は書いたが、
その後の便りは届いていなかった。
何かあったのではと、
ふみのは心配で
居ても立っても居られなくなっていた。
眩しい朝日が、
庭をゆっくりと照らし始めた。
いつもより早く目が覚めたふみのは
縁側から、その光を眺める。
此処の頃、千寿郎に家のことを
任せっきりにしてしまっていたので、
今日は休んでもらうよう話しをしていた。
(杏寿郎…いつ帰ってくるのかな…)
杏寿郎に会いたい。
名前を呼んで、抱きしめて欲しい。
ただその願いすらも
この鬼殺隊にいる限り、難しいことだと
ふみのは思い知らされる。
ふみのも疲れもあったものの、
杏寿郎に会いたいという一心で
連日の任務をこなしてきた。
たとえ恋が実を結んでも
相手を想う気持ちが、増せば増すほどに
心はどんどん張り詰めていく。
着物の胸元を、ふみのはぎゅっと握る。
ふみのは朝餉の支度をするため、
台所に向かおうと廊下を歩いていると、
ガラガラッ
玄関の戸が開く音が響く。
(…!杏寿郎…?!)
ふみのは一目散に
玄関に向かう。
そこには、いつもより少し弱々しく微笑む
杏寿郎が立っていた。