火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第15章 下弦の壱、そよぐ勿忘草 ˖☽°.*
ただ静かに俯く義勇を、
蓮は心配そうに見つめる。
「…すみません、
あたし余計なことを…っ
だ、大丈夫ですか…?」
「…何でもない、気にするな」
義勇の読めない表情に
蓮はしょんぼりと下唇を噛んだ。
「…蓮」
「…?
何ですか?」
蓮はゆっくりと顔を義勇に向ける。
蓮は、はっと息を飲んだ。
今にも泣き出しそうな、
切なくも、柔らかく微笑む義勇に。
「蓮…ありがとう」
「…っ」
その義勇の表情に
蓮の心はぎゅっと、
締め付けられるように
苦しくも、愛しさが止まなくなる。
「…忘れかけていたことを
思い出せた」
「…?
忘れかけていたこと…?」
「…ああ」
何処か遠く見て、
懐かしむように
小さく笑みを落とす義勇に
蓮は胸が熱くなる。
きっと義勇さんにもあるんだ
途轍もなく、悲しい出来事が
でも、苦しいところなんて
一切見せずに
只管に前を向いていて
柱にまでなって
鬼殺隊を支えてて
あたしも義勇さんに
命を繋いでもらった
だから今がある
こうやって、“今”を生きてる
ふみのにも
義勇さんにも出会えて
あたしは幸せだ
こんなに嬉しいことって他にあるのかな?
生きるって、生きてるって
こんなにも幸せだなんて
初めてだ、こんな気持ち
幸せって、ちゃんと目の前にあるんだ
お兄ちゃんが言ってた
“幸せ”って、きっとこういうことでしょ?
幸せは、あたしの目の前に
ちゃんといてくれたんだね
どうか、このままずっと
義勇さんの側で
笑えたらいいのに
一緒にいられたら、いいのに
「あ、あの、義勇さん…」
「…?」
「あたし、義勇さんに会えて…、
嬉しかったです…」
「…っ」
蓮は頬を赤く染めながら、
恥ずかしそうに自分の足元を見る。
ちらりと義勇に視線を向けると、
義勇も蓮を見つめていた。
「これからも、あの、義勇さんが良かったら
稽古を…続けて、もらえませんか…?」
緊張しながら蓮は義勇に聞くと、
義勇は蓮の切り揃えられた前髪に手を伸ばす。
ぽんと蓮の額に置かれた義勇の掌に
蓮は動けなくなってしまった。
撫でるわけでもなく、
ただ置かれた義勇の手に
蓮は身動きが取れない。
蓮の額にじわじわと、帯びる熱。