火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第14章 炎柱、そして迫る影
杏寿郎は居間に向かおうと
廊下を歩いていると、
千寿郎がこちらに歩いてきた。
「兄上!
父上は喜んでくれましたか?
俺も柱になったら、
…父上に認めてもらえるのでしょうか」
少し期待を込めた様子で
千寿郎は杏寿郎を見上げる。
(千寿郎……っ)
杏寿郎は、込み上げる思いを堪え、
千寿郎の前に跪く。
「…正直に言う、
父上は喜んでくれなかった!
どうでもいいとのことだ。
しかし、そんなことで
俺の情熱は無くならない!
心の炎が消えることはない!
俺は決して挫けない。
そして千寿郎、お前は俺とは違う!
お前には兄がいる、兄は弟を信じている。
どんな道を歩んでもお前は立派な人間になる!」
千寿郎の目からは
涙が止めど無く溢れ出た。
「燃えるような情熱を胸に、頑張ろう!
頑張って生きて行こう!
…寂しくとも…っ」
杏寿郎は涙で震える千寿郎を
強く抱きしめた。
千寿郎は炎柱の羽織を
ぎゅっときつく掴んでいた。
ふみのは日付けが変わる頃、帰宅した。
今回の任務は、手強い鬼ではなく、
手下のような鬼が数匹ばかり屯していた。
さっと湯浴みを済ませ、
自室に戻ろうとすると、
少し先にある、杏寿郎の部屋から
灯が漏れていた。
(杏寿郎…まだ起きているのかしら…?)
気になったふみのは
部屋の襖をそっと叩いた。
「杏寿郎…?起きているの…?」
ふみのが静かに声を掛けると
杏寿郎は暫く間を置いて、返事が返ってきた。
「…ふみの、お帰り。
何処も怪我はないか?」
「う…うん。大丈夫よ」
襖越しの杏寿郎の声は、
明らかに覇気がない。
(いつもの杏寿郎じゃ、ない…)
「杏寿郎、入ってもいい…?」
「…ああ」
ふみのはゆっくりと襖を開けた。
杏寿郎は背を向けて
座っていた。
その背中は、
どこか落ち込んているようにも見えた。
杏寿郎の横には
槇寿郎が嘗て着ていた
炎柱の羽織が置いてあった。
「杏寿郎…?何かあったの…?」
ふみのはそっと
杏寿郎の後ろに腰を下ろした。