火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第14章 炎柱、そして迫る影
益々恥ずかしくなるふみのだったが、
杏寿郎の抱擁に、
湧き上がる気持ちを抑えきれなくなる。
どうしてもその言葉を、伝えたい。
ふみのは、杏寿郎の耳元にそっと囁く。
「私ね、杏寿郎に…、
すごく、会いたかったの…っ」
たった一日も離れていないのに、
ふみのは杏寿郎が恋しくて堪らなかった。
それは杏寿郎も同じだった。
愛おしく想うふみのが
こんなにも自分のことを想い、
涙を流してくれている。
これほどまでに幸せなことが
あるのだろうか。
ふみのの髪からは、
いつもの優しい花のような香りがする。
そして、杏寿郎も
ふみのの耳元で低く囁く。
「俺も…ふみのに会いたかった」
杏寿郎はゆっくりと体を離すと
ふみのが目の前で
照れながらにっこり笑っていた。
「杏寿郎、お帰りなさい…っ!」
杏寿郎はその笑顔に導かれるように
心がふわりとあたたまった。
「ただいま、ふみの」
四人は、皆の無事の帰還を喜び合い、
千寿郎が作った朝餉を食べ、
束の間の休息を楽しんだ。
その様子を、
槇寿郎がひっそりと見ていたのは
誰一人、気付いていなかった。
杏寿郎は完治するまで、
暫く安静にするようにとのことで、
待機命令が出ていた。
そして数日が経ち、
怪我がほぼ完治してきた頃、
杏寿郎は鬼殺隊本部に呼ばれた。
他の柱達も揃う中、杏寿郎達の前には、
産屋敷耀哉──産屋敷家一族の九十七代目当主でもあり、鬼殺隊をも統率している──が、
娘達に支えられるようにして
縁側に腰を下ろしていた。
「杏寿郎。
君は本当に凄い子だ。
これからは柱として
鬼殺隊を支えてくれるかい?」
一部の柱からは、
ふんっと遇らうような声が聞こえた。
(それは以前にも杏寿郎に
喧嘩腰に話しかけてきた
風柱の不死川実弥であった)
「はい!
この煉獄杏寿郎、
謹んでお受け致します!」
杏寿郎は、この日より
鬼殺隊 炎柱に
任命されたのだった。
杏寿郎が本部から戻ると、
千寿郎が出迎えてくれた。
「兄上!この度は、おめでとうございます!
俺も本当に、嬉しく思います!」
「ありがとう、千寿郎!
毎日千寿郎が支えてくれていたお陰だ!」