火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第2章 一族の破滅
槇寿郎が放った炎の雄々しい虎は、
鋭い牙を剥き出しながら徳廣に飛びかかった。
徳廣は、ぎりぎりのところで身を交わしたが、
目の前を胴体部分が熱気と共に横切る。
あまりの熱さに徳廣はたじろぐ。
その刃から発している威力に全身が震えた。
(この刀からの波動はなんだ…っ
攻撃を受けていないのに、身震いがする…っ)
槇寿郎が刀を力強く振り下ろした。
その瞬間、猛獣のような虎の尾がブオンッと
徳廣の腕を目掛けて勢いよく振り落とされた。
(当たれ!!!)
予想外の攻撃に徳廣は追いつけず、
その燃え盛る尾に、腕を切り落とされた。
(!!…なに…っ!!)
ゴトッと徳廣の腕と一緒にふみのが床に倒れた。
(……っ!!!)
徳廣が怯んでいる隙に、その瞬間を逃すまいと、
槇寿郎はふみのに駆け寄り抱きかかえ、
ザッと徳廣と距離をとる。
腕に残る鈍い刺激に顔を歪め、ちっと舌打ちをする徳廣。
槇寿郎は目線を徳廣に向けたまま、
自分の近くの壁にふみのを下ろす。
槇寿郎はさらに険しい表情で徳廣に刃を向けた。
「お前の頚を斬る」
その瞬間、槇寿郎から今までよりも激しい波動が放たれ、
徳廣の全身に棘が刺さるような痛みが走った。
「炎の呼吸 玖ノ型 煉獄!!」
徳廣は目を見開き、燃え盛る炎に包まれ、
視界が真っ白になり、その瞬間に自身の頚から赤黒い血が吹き出していた。
「…な、なに、どう、いうこと、だ」
「頚を斬った。お前はまもなく地獄に落ちる」
徳廣の体から、頚が落ちた。
その後を追うように、体もバタッと倒れた。
その様子を槇寿郎は刀を鞘にしまいながら見ていた。
(どうして…どうして…っ)
ぼろぼろと灰のように消えかかる徳廣の目は大きく見開き、
その目からは涙が溢れていた。
「……俺は…っ!こんなことのために生きてきたんじゃない…!
どうして…どうして…!俺は“もの”じゃない…!!
なんで皆んな“俺”のことを見てくれないんだ…っ!!」
その言葉を最後に、徳廣は塵になって消えた。
その言葉を聞いた槇寿郎は、
彼が一族から都合のように扱われて生きてきたのだと悟った。
屋敷はゴオッと炎が激しい音を立てて、崩れかけていた。
槇寿郎はふみのを抱えて、屋敷の外へ駆け出した。