火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第14章 炎柱、そして迫る影
ふみのの瞳が揺れる。
泣きたくなるほどに嬉しくて
こんなにもあたたかく、
心がぎゅっと締め付けられる。
すると、玄関から
二人の姿を見つけた千寿郎が駆けてきた。
「兄上!ふみのお姉様!
お帰りなさい!」
「ああ千寿郎!今戻った!」
「ただいま、千寿郎くん!
今日は一日、
お留守番をしてくれてありがとうね」
「いえ!お二人が楽しめたなら何よりです!
蜜璃さんへの羽織は
見つかりましたか?」
「うん!とっても素敵なのが出来そうなの!
あと…はい!千寿郎くんにお土産!」
「…!!これ、読みたかった本です!!
良いのですか!?」
「前に書店で、眺めていたのを思い出して…。
喜んでもらえてよかったわ!」
「ありがとうございます!
大切に…大切に読みます!
今日の夕飯はふみのお姉様が
お好きな揚げ出し豆腐です!」
「本当に?嬉しいわ!」
「兄上にも、
さつまいもの塩きんぴらを作りました!」
「よもや!それは楽しみだ!」
夕陽は眩しく三人を照らし、
楽しげな声とともに
夕餉の良い香りが煉獄家に広がる。
これからも
そして、いつまでも
こんな時間を、過ごせるようにと
ふみのと杏寿郎は、切に願った。
ベン─────
不吉な琵琶の音が響き渡る。
其処には、障子で区切られた
果てしない数の空間が、所狭しと広がる。
「懦倥(ジュコウ)。
お前が何故、
此処に呼ばれたか、分かっているな」
血に染められたかのような
鋭くも冷酷な眼光が
暗闇に浮かび上がる。
「…勿論、存じております」
懦倥という鬼は、
奇異な笑みを浮かべ
その者の前に跪いていた。
懦倥の左の青白い眼球には
“下壱”と刻まれていた。
「貴方様に出会い、
今日に至るまで
思うことはただ一つ。
貴方様の為に、強くなる…。
それだけです…」
「…口では何とでも言える。
多くの人間を殺し、
下弦の壱になったからといって
思い上がるな」
殺意のような威圧感が伸し掛かり、
一気にその場が凍りつく。