火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第14章 炎柱、そして迫る影
「こんにちは!失礼します!」
杏寿郎の声が響く。
その女将らしき人はおらず、
客の姿も無く、店は静かだった。
店内は広く、
長い歴史を感じさせる佇まいだった。
奥には六畳ほどの畳が敷かれ、
着付けがその場でも出来るようになっていた。
入り口付近には
美しい絹織物や着物がずらりと並び、
簪や櫛などの装飾品も数多く置かれていた。
はい只今と、
奥から声が聞こえた。
すると、一人の女性が
ぱたぱたと小走りで
こちらへやってきた。
「このお声は、もしかしてと思ったら!
杏寿郎さん、お久しぶりですね」
「ご無沙汰しております!」
「まあまあ、
こんなに可愛らしいお連れさまもご一緒で…」
ふみのはその女性の
柔らかい瞳に釘付けになった。
「初めまして、
一ノ宮ふみのと申します。
以前、杏寿郎さんから、
こちらの素敵な羽織物を頂きました。
とても気に入っています…!
今日は、後輩へ贈る羽織物を頂きたくて
お伺いさせて頂きました」
「まあ、そうでしたの…!
あの羽織物はふみのさんへだったのですね。
私は芹草越百合(せりこしゆり)と申します。
どうぞ宜しくお願いします、ふみのさん」
にこりと笑う百合は
見惚れてしまう程、美しかった。
所作も丁寧で、淑やかだ。
百合の透き通るような白い肌に
女性のふみのでさえも
胸がどきりとしてしまう。
容姿端麗とは、
まさに百合のような人を指すのだと
ふみのは思った。
「差し上げる方は
どのような方なのですか?」
「ええと、女性なのですが、
桃色の髪色をしてまして…!
とても、可愛らしい方です」
「背はふみのより
少しばかり大きいくらいだな!」
「そうなのですね、
でしたらこちらに良さそうなのが…」
百合は棚から幾つかの
絹織物を用意してくれた。
ふとふみのは、
隣の棚に置いてある、純白で
良く見ると繊細な小菊模様があしらわれた
絹織物に心惹かれた。
(なんて、綺麗な……)
思わず、その生地に手を伸ばし
指先でそっと撫でた。
滑らかな手触りに
うっとりしてしまう。
「ふみのさん?」
はっと、ふみのは我に返った。
「す、すみません!!
よそ見をしていましたっ」