火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第14章 炎柱、そして迫る影
「…あ、そうだ、杏寿郎、
あのね、ちょっと考えてることがあって!」
「ん?どうした?」
「蜜璃ちゃんへ入隊のお祝いに、
私達から、羽織を渡すのはどうかしら…!
杏寿郎から貰った呉服屋さんで
選ぶのは、どうかなって…」
「それは名案だ!是非そうしよう!
ふみの、次の非番はいつだ?」
「ええっと、明後日!」
「! 俺も明後日が非番だ!
では、一緒に羽織を選びに行こう!」
「うんっ!」
ふみのは初めて行く呉服屋に
胸を高まらせた。
そして翌々日。
杏寿郎とふみのは
煉獄家が代々お世話になっているという
芹草越(せりこし)呉服店に向かっていた。
実のところ、ふみのと杏寿郎は二人だけで
街へ出かけたのは、これが初めてだった。
ふみのは歩きながら
杏寿郎を横目でちらりと見る。
久しぶりに見る杏寿郎の着物姿に
ふみのは見入ってしまいそうになる。
(杏寿郎はどんな格好でも
絵になるなあ…)
そんな杏寿郎も
普段と違うふみのの装いに
戸惑いを隠すのに必死だった。
普段、一つにきゅっと
きつく束ねている髪は、
今日はゆるりと結った団子に
小さな花の簪がきらりと光る。
顳顬から揺れる髪は
更にふみのを美しく見せた。
髪型だけで、こんなにも雰囲気が変わるのかと
杏寿郎はふみのに目を奪われる。
(やはりふみのは愛いな…)
ふみのがお気に入りだと言っていた
白い小花柄が咲く、薄藍色の着物もとても良く似合う。
ふみのは杏寿郎からの視線に気付き、
はっと、杏寿郎を見上げる。
「な、何か変…?!」
「い、いや!
ふみのと出かけるのは
初めてだと思っていてな!」
「確かに、そうね!
たまには、ゆっくりこういう時間もいいわね」
ふみのは嬉しそうだった。
楽しそうにするふみのの横顔を
杏寿郎は目を細めて、見つめていた。
呉服屋は風情のある街並みに
厳かに、落ち着いた雰囲気で構えられていた。
「素敵な、立派な呉服屋さんね…!」
「ああ!今は十五代目の女将さんが
店の切り盛りをされている!
品揃えも、かなりいいとの評判だ!」
ふみのと杏寿郎は暖簾を潜り、
店内へと足を踏み入れた。