火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第14章 炎柱、そして迫る影
「ふみの、…入ってもいいか?」
杏寿郎は、ふみのの部屋の前で
そっと声を掛けていた。
ふみのの返事はなかった。
「…ふみの?」
もう一度杏寿郎が呼ぶと
襖越しに、ふみのの小さい声がした。
「…だめ」
「…何故だ?」
「……」
「ふみの、頼む。
顔を見て、話しがしたい」
「…だって今、
顔、ぐしゃぐしゃ、なんだもん」
ふみのは泣いているのか
声を詰まらせていた。
「ならば、その涙を拭いたい。
…ふみの、開けても、いいだろうか」
杏寿郎は襖を叩き、
ゆっくりと開けた。
ふみのは縁側に、
膝を抱え座っていた。
その横に杏寿郎も腰を下ろした。
ふみのの横顔をそっと見る。
頬には涙が伝った跡が残っていた。
「…ごめんね。杏寿郎」
ぽつりと言うふみのの言葉が
静かに落ちていく。
「ふみの、
父上もふみののことを
傷つけるつもりはなかった筈だ。
…きっと俺達のことを想って
言ってしまったことだと思う」
「うん…。
槇寿郎様もきっと苦しい筈なのに
私、何も考えてなくて
酷いことを言ってしまって…」
「ふみの…」
ふみのへ掛ける言葉が思いつかず
杏寿郎は唇を噛む。
「…槇寿郎様には
こんなにも優しい杏寿郎と千寿郎くんがいるのに
どうして、あんな態度を取るんだろうって
思ってしまったの…。
目の前にいてくれるのは、
決して当たり前じゃない…。
寄り添ってくれる家族を、
近くに居てくれる杏寿郎達のことを
ちゃんと想って、欲しくて…っ。
私…槇寿郎様のことを…、
許せないって、思ってしまった…っ。
でもあの日、あの夜
私を、命を掛けて助けて下さったのは
槇寿郎様なのに…っ、
なのに、なのに私、なんて酷いことを
思ってしまったんだろうって…っ」
ふみのから
涙が止めどなく溢れる。
「私、恩知らずだよね…」
ふみのは顔を埋め
更にきつく、膝を抱える腕へ力を込めた。
「…ふみの」
杏寿郎は、ふみのにそっと声を掛け、
膝をきつく抱くふみのの腕を
ゆっくりと解いて、そのまま手を握ってくれた。