火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第12章 片想い
「怪我人もいたから
そっちの手当に追われて
冨岡さんとは
それきりになっちゃったんだけど…。
なんか、その時の、
冨岡さんの目が…────」
蓮は一点を見つめ、じっと固まる。
「…冨岡さんの目が、どうしたの?」
ふみのと蜜璃は蓮の言葉の先を待った。
「…ううん、何でもない!!
わーっ、感じたことない気持ちって
なんか調子狂うな〜〜!
変なこと言い出してごめんっ!!」
蓮は両手を上げて体を反らし、背中を伸ばした。
いつもの蓮からは想像できない表情に
ふみのは心配そうに蓮を見つめた。
「蓮、私で良ければ話し聞くから
なんでも言ってね?」
「うんっ!ありがと!
そん時は、ふみのと蜜璃に相談するよっ!」
さっきの表情が嘘のように
蓮はいつも通りに二人に笑かけた。
「さ!三人で稽古しよ!
杏寿郎くんにぎゃふんと言わせてやるんだからっ!!」
ほら蜜璃早く構えてっ!と
蓮は何事もなかったように
蜜璃の腕を引っ張り、庭に出ると
木刀を振りかざしていた。
(蓮も、あんな顔するんだ…)
蓮が一瞬だけ見せた、
頬を赤く染めながら照れた顔が
ふみのの脳裏に焼きついて離れなかった。
“恋する乙女”とは
このことなのだろうか。
そういうふみのも
自分が杏寿郎に恋をしていると思うと
再び、心臓がどきんと跳ねる。
(恋って…、
胸が苦しくなることの方が多いのね…)
ふみのは高く昇った日を見て
手を顔の前に翳した。
眩しいくらいの日差しが
ふみのを照らしつける。
自分が恋をするなんて
思ってもみなかった。
まさか、こんなに近くにいる人を
好きになるなんて。
でもきっと生きている人々の間には
たくさんの恋が生まれていて
遠い昔の人からの心の想いを受け継ぎながら
今を生きる自分達へと
生命(いのち)が繋がっていると思うと
計り知れない程の、神秘的な気持ちになる。
自分の父や母も、恋をして結ばれ
夫婦になったのだと思うと
じんわりと胸があたたまってくる。
もし、父と母が出会っていなければ
恋する仲になっていなければ
自分はこの世に生まれていないのだ。
途轍もない、奇跡のような連鎖が積み重なって
この世界に生きていると思うと
ふみのは目頭が熱くなる。