第12章 片想い

しのぶは二人を起こさないように
寝台の横にある小さな明かりを灯した。

「お二人は、
　素敵な片想い同士、なのですねえ」

しのぶは、ふふふと小さく笑うと
棚にしまってあった毛布を
そっとふみのに掛けてあげた。

「…いつか、
　お二人の気持ちが、結ばれますように」

そう微笑みながら、
しのぶは静かに扉を閉めた。





鳥の囀りが聴こえる。

杏寿郎はゆっくりと目を開けるが、
窓からの朝日の眩しさに、
思わず目を細めた。


（此処は……）


自室ではなことは分かったが
蝶屋敷だと分かるまでに
少々時間がかかった。

（手元があたたかい…。
　花、のような、香り…）

まさかと思いながらも
杏寿郎は顔を手元に向けると
そこにはふみのがすうすうと
寝息を立てながら眠っていた。

「…ふみの…っ！！」

体を動かそうとするが
節々に鈍い痛みが走り、
上手く動かせなかった。

「……んっ…」

杏寿郎の声に
ふみのはゆっくりと目を開けた。

「……きょうじゅ　ろ…？」

まだ微睡んでいるかのような声で
ふみのは体を起こした。

「ふみの…、
　まさか、ずっと此処にいたのか…！？」

ふみのはまだ少し眠たそうに
瞬きを数回繰り返していた。

ふみのはやっと目が覚めてきて
はっとして杏寿郎を見る。

「…杏、寿郎…っ！具合はどう…？！
　昨日帰ってきたら、もの凄い高熱で…っ。
　しのぶさんに診てもらったの…」

「そう、だったのか…。
　…心配をかけてすまなかった」

「…傷のこと、ちゃんと言ってくれれば
　良かったのに…っ」

「…本当にすまなかった。
　伝えたらふみのが心配すると思ったんだ。
　それでなくても、
　ふみの自身の腕の怪我もあっただろう。
　これ以上、ふみのに負担をかけたくなくてな…」

結果このようなことになってしまったことを
杏寿郎は深く反省しているようだった。

二人の間に沈黙が流れる。

杏寿郎は横目でふみのを見ると
俯きながら肩を震わせていた。

「ふみの…！？」

杏寿郎は強ばった体を起こし、
ふみのの顔を覗き込んだ。

「…ふみの、本当にすまなかった。
　俺は、泣かせてばかりだな…」