火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第10章 訪問者と贈り物
「…杏寿郎、ありがとう。
焦っては駄目ね。
また自分を見失いかけていた。
駄目だなあっ!私は…っ!
もう泣かないって、決めたのに…っ」
ふみのは杏寿郎に
顔を見られないように目を逸らした。
溢れ落ちそうな涙を
必死に堪えているふみのを
杏寿郎はそのまま後ろから抱きしめた。
「……っ!きょ…っ」
「俺の前では、いつでも、泣いていい。
泣きたい時は、いつでも、泣いていいんだ」
杏寿郎のその言葉に、
ふみのは記憶を巡らす。
『辛い時は
たくさん泣いていいのですよ』
瑠火の言葉だった。
煉獄家に来て、生きる希望を失いかけていた時、
瑠火がふみのにかけてくれた言葉。
杏寿郎と瑠火の想いが
ふみのの中で重なる。
ふみのは抱きしめてくれる杏寿郎の腕に
ぎゅっと自分の手を添えた。
「うん…っうん、杏寿郎…っ、
本当に、ありが、とうね…っ」
それ以上の言葉にできないふみのは
声を詰まらせながら、静かに涙を流した。
杏寿郎はそのままずっと、
ふみのの涙が止まるまで
やさしく抱きしめ続けた。
その様子を、要と杲は
ひっそりと部屋の外から見ていた。