第1章 特技は月刊誌を引きちぎる事です。
『え!私の社員証!』
「ホテルの部屋に落ちてたよ」
『ありがとうございまー...ホテル?』
「ホテル。なに、忘れた?」
ホテルの単語で一瞬にして状況を理解した。
『悟くん!?』
「うっさ、そーそー」
『お爺ちゃんじゃない!?』
「誰がジジィだ。顔面詐欺師」
『詐欺ってねぇし!あれは去年、撮り直したわ!』
初対面のくせに失礼な奴!
「奏音」
横から聞きなれた声が聞こえた。
待ち伏せしてないと思ってたのに...愛おしそうに私を呼んでた声は情けない声で私を呼ぶ。
『...なに?』
「仕事お疲れ...これ、好きだろ」
『要らない』
彼が差し出してきたのは私が仕事終わりによく飲んでたカフェのコーヒー。
機嫌取り?様子見?の為に差し出してきたコーヒーを私は拒否した。
「話がしたくて」
『話して何か変わるの?』
「...彼女、職場の後輩でずっと俺の下で頑張ってきてた子なんだ。一生懸命頑張る彼女に俺も妹のように接してて...恋愛感情は無かったんだ。」
『無くても妹のように接しててもやれるんだね。へぇーすっげ』
「俺、転勤決まったんだ。」
私のツッコミを無視して突然の転勤報告?意味わかんねぇ
『あっそ』
「前に転勤かもって言った時に奏音なんて言ったか覚えてるか?」
なんて言ったっけ?
「『新婚早々に別居婚か〜仕方ないよね』って言ったんだよ」
『...だから何?私だって仕事してるんだから仕方ないじゃん』
「仕方ないかもしれないけど、俺は嘘でも着いて行くって言って欲しかった。仕事辞めて俺と一緒に来て欲しかった。」
...なに?
「そしたら彼女は泣いてくれて、ずっと好きだったって告白してくれて...仕事辞めて一緒に連れて行ってくれって言ってくれたんだ...そしたら、なんか、その...そうなって、今に至る」
なに、言ってんのこいつ?
『だから何?』
「え?」
『私が全部、悪いの?』