第10章 溺愛
「…変じゃないよ。」
「…前に俺が殺した女も、その施設にいた奴だった。結婚とかほざいてたけど、ああいう女がいた。ってのを覚えてるだけで、した会話とか何も覚えてねぇ。」
「…結局…あの人も殺しちゃったんだ…。」
「あぁ。」
「…コウちゃん…。」
「あ?」
「…泣かないで。」
「!……泣いてねぇよバカ。」
震えた声でそう言った彼。
*
家に帰ると、コウちゃんはいつも以上にくっついていた。シュウさんとイチさんに家まで送ってもらった。
「コウちゃんの昔話、もっと聞きたい。」
「別に聞いてもなんも変わんねぇよ。」
「ねぇ、コウちゃんはどうしてここまで自立できたの?」
「…さぁな。」
「…じゃあ、コウちゃんはどうやって施設を出」
「菜月。」
「…何?」
「…黙れ。」
「!…」
コウちゃんは煙草に火をつけ、煙を吐いた。
「…」(聞かれたくないってことか…。)
自分で話すのは良いけど、人に聞かれるのは嫌らしい。
「…コウちゃん。」
「…」
「好きだよ。」
「何誘ってんの?」
目を細めて私を見つめた。
「!…ち、違う…。」
「セックスする?」
「し、しない…。」
「…俺はしてぇんだけど。」
まだ長い煙草を灰皿に擦り付け、立ち上がった。
「!…」
私の腕を掴んで別室へと連れていった。