第1章 迷い人
玄関のドアを開けて靴を脱いでいると、出迎えに来てくれたジルが荷物を受け取ってくれる。
「ありがとう」
咄嗟に口から出た日本語にジルは微笑む。
「それキッチンにお願い。キッチン」
ジルは少し考えるそぶりを見せてokと言って荷物を置きに行ってくれるようだ。なんとか通じたとほっと息を吐く。
買ったものを冷蔵庫の中に詰めながら今後のことを考え始めた。
一体彼らはどこから来てこの部屋に入ったのだろうか。名前を聞くにアメリカ人のようだがアメリカのような名前なんて日本人じゃあるまいし、いくらでもいるだろう。
それに、ジルの言っていたラクウンとはどこなのだろうか。どこかアメリカの中の地域なのだろうか。しかし、ラクウン……どこかで聞いたことがある名前だ。
じっと考えていたせいで冷蔵庫が早く閉めろと音をたてたので、急いで冷蔵庫を閉じて2人のいる部屋へと向かった。
「お待たせしました」
「気にしないで」
「ジル、ウゥスカー明日買い物に行きましょう。服も買った方がいいですし、お金は気にしないでください」
「そうよね。ありがとう」
チラリともう1人を見るが、やはりウェスカーは話そうとしない。視線をぶつけても一瞬こちらを見るだけで、またすぐ目を逸らされてしまい居心地が悪い。できれば、買い物の時に心の距離が少しでも縮まればいいのだが。
負担と期待を抱きながら2人を見つめる。