第1章 迷い人
睨みつけるジルにウェスカーが涼しげな顔で部屋の中を見渡す。
「あの……もしよければ、少しの間この家に住みませんか?情報収集もしないとですし」
「ああ、そうさせてもらう」
「貴方ねえ!」
「構いませんよ。困った時はお互い様ですから」
「ジルのことはどうでもいい。コーヒーはあるか」
「ああコーヒーはないです。すみません」
「ウェスカーなんであんた寛いでるのよ。ありえない」
「………」
どうやらジルとウェスカーは仲が悪いようだ。
「ジルさん、ウェスカーさん」
2人は同時にこちらへ視線を移す。2人の視線を受けながら口を開いた。
「ウチの名前は、です。これから宜しくお願いします」
「ええ、よろしく」
「ああ」
ばらばらな2人の返答に微笑んだ。
「とりあえず今日の夜ご飯は何がいいですか?」
「私はなんでもいいわよ」
「えーっと?」
何も言わないウェスカーを見つめていると、彼は鬱陶しそうに口を開く。
「なんでもいい」
「じゃあとりあえず買い物に行ってきますね。お2人はゆっくりしててください」
翻訳機を耳から外し家を出る前にもう1度2人の様子を覗く。
2人は全く話をしないどころか目も合わせようともしない。
仲間同士なのだからもう少し仲良くしてほしいものである。
そそくさと重い空気の2人から離れてさっさと家を出た。