第110章 黒鉄の魚影
『OK。合流したらそっちに向かうわ』
通話を終える。ゆっくりタバコの煙を吐き出し、近づいてきた足音に顔を上げる。
『……浮かない顔ね』
「あ?」
『だからついて行くって言ったのに』
「……チッ」
ピンガは大きく舌打ちをした。
不安だからついて行く、という私の言葉を跳ね除けてピンガは1人でユーロポール・防犯カメラ・ネットワークセンターへ向かった。そこでパソコンに向かう姿を職員の女に見つかったらしい。その連絡を受けて大きなため息をついた。
『一緒に行けばすぐに始末できたわ。それなのに街中でこんな追いかけっこするはめになるなんて』
「うるせぇ……で、その女は始末したんだろうな?」
『ええ……ジンがね』
「は?」
そう言うとサングラスの奥の瞳が見開かれた。
『今キールから連絡があったし、間違いないと思うけど』
「……クソっ!」
ぶわっと広がった殺気に肩をすくめた。年々ジンへの当たりが強くなってる気がする。今回は特に気に入らないだろう。ピンガのミスをジンが尻拭いしたようなものだし。
タバコを携帯灰皿に押し付けて火を消す。ブツブツと何かを呟いているピンガの肩を軽く叩くとその手は振り払われた。思った以上にピンガのプライドが傷ついたようだ。
『とりあえずみんなと合流しないと』
「……」
歩き出した私の後ろをちゃんとついてきているようでほっとした。そのまま合流地点まで向かった。
人目につかないその場所にタバコの匂いが漂っている。何故か微かに血の匂いもする。
『お待たせ』
「……」
タバコの煙を吐き出したジンに声を掛ける。が、相変わらずの反応。そしてそこにいるもう1人、キールを見て思わず目を見開いた。
『ちょっと、なんでキールが怪我してるのよ』
キールの右肩から血が流れている。まだ手当てもされてなくて、キールの額には汗が浮かんでいる。ざっと傷口を確認したが弾は抜けているようだ。
『逃げた女にやられたの?』
「いいえ、違うわ……」
キールがちらりとジンを見た。でも、それ以上口を開こうとしない。
『仕方ないわね。悪いけど先に戻るわ。キールの手当てしないと』
「……いいわ、大丈夫よ」
『そんな顔して何言ってるの。ほら、行くよ。ホテルに行けば道具もあるから』
そう話していると後ろからぐいっと腕を引かれた。