第108章 カイピリーニャは甘すぎる #2 ※
「諦めねぇって言ったろ」
そう言ってピンガは私の頭をそっと引き寄せた。またか、と思って唇を抑えたが、キスされたのは髪だった。
「気長に待ってやるよ。こっちも本格的に潜入に向けて動くからしばらくは会えそうにねぇがな」
『そっか……頑張って』
「ああ……もしあの野郎に愛想が尽きて気が変わったらいつでも連絡してこい」
ピンガはニヤリと笑う。そして、くしゃりと私の頭を撫でてゆっくりと去っていった。
キスされた当たりに触れてため息をついた。そういう意味だとわかってやってるのか……だったらタチが悪い。その気はないと言いながらも、煮え切らない態度をとる私も良くないんだろうけど。
短期間でここまでの関係になってしまうとは思ってなかった。年齢が同じというのもあるんだろう。言い方は良くないが、コードネームを得た時期からして私の方が立場は上だ。だからこそ、変に固くなる理由もないし、気が楽なのも確か。
会う順番が違っていたら……いや、私はマティーニだ。マティーニは、ピンガじゃ作れない。ジンじゃなきゃ駄目だ。
しばらく潜入で忙しくなるようだからいい機会だ。ピンガにはこれ以上深く関わりすぎないようにしないと……そう思ってる時点でもう手遅れなのかもしれないけど。
再度大きくため息をついて今度こそ自室へ向かった。
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予定外の事もなく無事に任務が終わった。そして今は、ジンの車の中。ジンの泊まっているホテルへ向かう途中だ。
車内の空気は重くてジンも私も口を開こうとしない。ちらりとジンの横顔を盗み見ると偶然か、目が合って慌てて逸らした。
その視線だけで人が殺せるんじゃないかというくらい、鋭くて冷たい目。見るのは初めてではないけど、今回に関しては別だ。その目が向けられているのは間違いなく私なのだから。この後どんな扱いを受けるんだろう……想像するだけでかなり怖い。でも、逃げ場なんてないしどうにか覚悟を決めるしかないようだ。そんな事を考えている間に目的地へ着いた。
ジンの数歩後ろを歩いていく。ジンが立ち止まった部屋のドアを開ければ強めのタバコの匂いがした。
ゆっくり息を吐いてできるだけ気持ちを落ち着ける。部屋に足を踏み入れた。先に立っていたジンがくるりと振り返り、すぐ壁際へ追い詰められる。
「文句はねぇな?」
その言葉に小さく頷く。すると、荒々しいキスで唇を塞がれた。