第106章 3年前の11月6日
『プラーミャ?』
「何か知ってるか?」
『風の噂程度には……世界規模で活動する殺し屋でしょ』
「ああ」
『それがどうかしたの?』
ジンにそう聞くと目の前に出されたのは……これはロシアの新聞だろうか。よく手に入ったもんだ。ロシア語は勉強しているけど、まだ完璧ではない。わからない単語はとばしながら、それでもだいたいの内容は掴めた。
『……ただ、工場が爆発しただけでしょ?火の不始末って書いてあるし』
「いや、ロシアにいる組織のヤツらに探らせたがそうじゃねぇらしい」
『どういう事?』
「そもそも火の不始末程度でそこまで大規模な爆発は起こらねぇ。遺体の数が多すぎるのも不自然だろ」
『……』
火の不始末だとしたら、発火してから逃げるまでに少なからず時間はあったはずだ。それなのに、その時間その工場にいたらしい人間は全員死亡。逃げる間もなく爆発が起きたと考える方が自然かもしれない。
『これにそのプラーミャが関わっていると?』
「あくまで可能性の話だがな」
そして次に渡されたのは分厚い資料。それをパラパラとめくって内容を確認する。
かなり上の地位にいる政治家。裏では色々な事に手を染めているらしく、その被害をこの工事は受けていたらしい。それを近々告発するつもりだったようだが、その矢先この爆発が起きたらしい。
『プラーミャは権力者との繋がりが深い……?』
「おそらくな。世界中で活動しているにも関わらず表には一切の情報が出てこねぇ。警察もロクに動いてねぇだろうな」
『へぇ……』
理不尽な世の中だと思う。権力や金のある者が得をして、そうでない者が簡単にその命を散らす。それは、きっとどこの国でも同じで、そういうヤツらがいる限りプラーミャという殺し屋は活動し続けるのだろう。
『……勧誘とかするつもり?』
「そのつもりはねぇ。もし寝返りでもしたらこの場所が吹っ飛ぶ」
『うわぁ……』
「だが、金を積めば使えねぇ事もない。もう少し調べる必要がありそうだがな」
ジンはそう言って立ち上がった。そして、コートを羽織り帽子を被る。
『遅くなる?』
「何かあるのか?」
『私も私用で出るからさ……帰るタイミング合いそうなら途中で拾ってもらおうかなぁって』
「……覚えてたら連絡してやる」
『ん。ありがと』
そう言って部屋を出ていくジンを見送った。