第98章 これで、終わり
『あら、その程度の抵抗しかしないの?』
「う……はな、せっ……!」
「マティーニ……!」
『来ないで。本当に殺しちゃうわ』
足を引きずりながらもこちらへ向かってくる降谷を睨む。
『もうすぐこの階も爆発する。さっさと逃げたら?』
「逃げるわけないだろ……!」
『……そう』
窓の外を見ると、向かいのビルで何かがキラリと光った。あれがライフルのスコープならば。
『撃たれるのは嫌ね……』
コナン君を盾にして窓際へ近づく。そして、左手を……コナン君ごと窓の外へ突き出した。
『ねぇ、マティーニのレシピは知ってる?』
「っ……な、にを……」
『ジンとベルモットで作られる酒よ。でも、もう駄目ね。どちらか1つじゃマティーニは作れない。だから、私も……』
一際大きな爆発音がした。少し遅れて足元が揺れる。それに混じって、建物の下の方から聞き慣れた幼い声が聞こえた気がした。
『貴方の勝ちよ。シルバーブレット……工藤新一君』
「っ……」
『私は組織諸共消える事にするわ』
そう言って微笑み……左手を離した。
「うっ、わぁぁぁぁぁ!!」
「コナン君!!」
降谷が叫んで窓の外へ飛び出していった。空中で小さな体を受け止めているのが見えて……同時に、私の左脚が弾丸に貫かれる。バランスを崩して壁に背を預けたままずるずると崩れ落ちた。
『ふふっ……久々に楽しかったわね……』
ぼろぼろになってしまったけど、悪くなかった。そう思いながら首元に手を伸ばし……いつもだったらそこにあるものがなくて指が空を切った。
『ああ……置いてきたんだっけ……』
ネックレスと指輪……この爆発じゃ欠片も残らないだろう。
頭の中をたくさんの思い出が駆け巡っていく。楽しい事も辛いことも、全部全部。色のなかった人生がこんなに惜しいものになるなんて思ってなかった。
『生きててよかった……なぁ……』
最後はこんなふうになってしまったけど。
『会いたいなぁ……』
関わってきたたくさんの人の顔が浮かぶ。強力しあってきた仲間、大切な姉妹、大好きな人。
『マティーニ……私にはもったいない名前だったのかも、しれないわね……』
でも、その名前をもらってすぐより、それに似合う人間になれたんじゃないかな。
その人生も……これで、終わりだ。