第95章 知られてしまった事実
『それじゃあ、頼んだ事ちゃんとやって』
「ええ、もちろんです……それでは」
踵を返したバーボンの背を見送る。次会う時は完全に敵同士だ。
『あ……待って!』
バーボンがドアを開けたところでハッとして声をかけた。まだ聞いてない事が1つある。
「どうしました?」
『もう1つ、聞いておかないといけない事があって』
「……なんでしょう?」
聞く必要はないのかもしれない。でも、このままにしておけない。ちゃんと敵同士で向き合うためにも、これは聞いておかないと。
心臓が妙に大きな音を立てている。小さく息を吐き出してバーボンと視線を合わせた。
『貴方が、私に言ってくれた事……好きだっていうのは、本当?』
バーボンの目が少し見開かれた。そして困ったように笑う。
「自分でもおかしな話だと思いますよ。でも、僕は本当に貴女の事が……」
バーボンが言いかけたところでその頬に触れ、キスで唇を塞いだ。その答えは私が求めているものじゃない。
『……ごめん、よく聞こえなかった。もう1回言ってくれる?』
「貴女を、懐柔して……都合良く情報を引き出す為の、嘘に決まっているでしょう?」
『……そう。それならよかった』
バーボンの頬から手を離す。そして、目の前の胸をトン、と押した。
『さようなら、バーボン』
そう言ってドアを閉めた。鍵を掛けてから大きく息を吐く。力の入らない足をどうにか動かして部屋の奥へと戻る。そして、ベッドに倒れ込んだ。
これで私のすべき事は終わりだ。バーボンならちゃんとやってくれる。問題ない。大丈夫……だから、泣く必要なんてないのに。
静かに流れ出した涙は頬を伝ってシーツへ落ちていく。流れ続ける涙は止まる気配がなくて、途中で拭う事をやめた。
敵だ。そうわかっていても、そこにどんな思惑があったとしても、何度もバーボンに助けられた。そうでなかったなら、私もどうなっていたかわからない。
出会う順番が違ったら、住む世界が違ったら、私はバーボンを選んでいたかもしれない。それほどまでに彼を受け入れていたんだと思う。でも、もうそれも終わりだ。
気分を切り替えるためにもシャワーを浴びよう。ノロノロと立ち上がって頬を両手で叩く。そして、バスルームへ向かった。
計画が動くのは次の新月の夜。その日まであと、2週間。