第93章 根拠のない確信
ラム、というコードネームが頭をよぎった。根拠はなにもない。でも、確信に似た何かがあった。
性別も年齢も不詳。組織内で噂されている人物像は全て違う。会話をした事はあるけど、全て機械を通した声だった。唯一の情報は左右どちらかの目が義眼である事。
思い過ごしであって欲しいものだが、もし本当にあの男がラムだとしたら。コナン君の近くにいるのは危険だ。どちらにしても私の計画も早めに進める必要がありそうだ。
帰ったらジンにラムの事聞いてみよう。ジンは面識があったはずだ。
「んな事聞いてどうする」
『ちょっと気になったから……』
ラムの話題を振って早々にジンの機嫌が悪くなった。帰ってきた時点でもう既に不機嫌だったみたいだけど。任務の打ち合わせで部屋にいたウォッカも少し顔色を悪くしている。
『ほら、噂はあるけど皆違う事言ってるし』
「……あの噂はラムが護身の為に流した偽情報だ。確かなのは義眼である事だけだな」
『ジンはあった事あるんだよね?』
「……ああ」
『なんか他にヒントになりそうな事知らないの?今はどんな任務についてるのかとか』
「……」
『まあ、無理にとは言わないけどさ……』
私がそう言うとジンは新しいタバコに火をつけた。ゆっくりと煙を吐き出しながらニヤリと笑った。
「詳しい事は言わねぇが……顔を変えてふざけた名前を名乗ってやがるぜ」
ふざけた名前?同じ事を疑問に思ったのかウォッカと視線が合ったが、それ以上聞く事はできずその話は終わった。
しばらく話をしてウォッカは部屋を出ていった。テーブルの上に置かれた紙を手に取って眺める。
『こんなものよく解読できたわね』
「法則さえわかれば大した事ねぇ」
FBIから傍受した暗号は解読すると待ち合わせ場所と日時が記されていた。先回りをしてその場所にいるFBIを殺って身分証を盗む。なかなかの作戦だが、この先に控えている大事の前に少しでも敵を減らすらしい。
「……てめぇ、ラムと何かあったのか」
『……いや、何もないと思うけど。どうして?』
ジンは短くなったタバコを灰皿に強く押し付けている。何かあったのか……どちらにしても不安でしかない。
「しばらく大人しくしておくんだな。大事な時期だ。最悪、切られるぞ」
『……そうだね。気をつける』
私はそう答える事しかできなかった。