第90章 過去との決別
『……ん』
僅かに感じた振動にゆっくりと目を開けた。数回瞬きをして視界をクリアにする。どうやら私はジンに抱き抱えられているようだ。
「起きたか」
『うん。ごめん……あのまま寝ちゃったんだ』
「……最近ずっと気を張ってたからな」
私の部屋につきソファにそっと下ろされた。そして、ジンは自身のコートのポケットに手を入れて何かを取り出した。
『あっ、それ……』
そのまま私の手に落とされたのは、ロボットに渡されたネックレス。たぶん寝てる間に落としてしまったから、代わりに持っててくれたんだろう。嬉しいのだけど、少し不安になる。
『……』
「言いてぇ事があるなら言え」
『……セカンドの事、忘れた方がいいのかなって』
ネックレスをぎゅっと握り締めて呟いた。
「どうしてそう思う」
『一応、敵だったんだし……それに、最後あのロボットに姿を重ねちゃって、絶対駄目だって思ってたのに』
偽物だとわかってたからこそ、その事が衝撃で。最後の最後になんて事を考えていたんだろう。そして、忘れなきゃ駄目なのか……と思うと、また泣きそうになる。目を強く瞑って抑えようとしたけど、声が震えてる気がする。
「忘れてぇなら忘れればいい。でも、そうしたいようには見えねぇな」
『……』
「そんなに大事なヤツだったのか。偽物に重ねるほど」
『……うん。大好きだった』
あんな場所にいても優しくて、とても綺麗に笑う顔が大好きだった。私には無いものをたくさん持ってた。ずっと、一緒にいられると思ってたのに。
「だったら覚えてればいい。人の記憶にケチ付けるほど器はちいさくねぇ」
『え……?』
「今、お前の1番が俺ならそれでいい」
そう言ったジンに、顎をスっと掬われて唇が重ねられる。少し遅れて涙が一筋落ちた。
何度も何度も、優しくキスが落とされる。ジンなりに慰めようとしてくれてるらしい。やっと慣れたと思ったがまだドキドキする。
しばらくしてジンが体を離して、そのままバスルームへ入っていった。
小さな飾りのついたネックレス。少し考えてジンにもらった指輪をそのネックレスに通した。これがあれば、2人がいつでもそばにいるような気がする。
本当に大好きだった。貴女に教えてもらった事も、名前もずっと大切にしていく。セカンド、貴女の事は忘れないから。