第85章 重なる影※
亜夜side―
飛び出してきたものの、どこへ行けばいいかとふらふら歩きながら考える。明日の任務のためにも早く休まなければ、と思うけど帰ってジンに会うのは嫌だし、だからといってこの時間からどこかホテルを取るのも面倒だ。となると、行ける場所はひとつしかない。徒歩だと少し時間がかかるが、酔いと昂った欲求を冷ますのにはちょうどいいだろう。
周囲の目がないことを確認して玄関の扉を開いた。すぐに体を入り込ませて鍵をかける。
アイリッシュがくれたこの部屋にはもう何度か来ているが、それでも物は最低限だけだ。
さっさとシャワーを浴びて全てを洗い流し、置いてあった新品の服を身につける。そして、パソコンを開いて警察庁内のマップを見る。これが、こんな形で役に立つとは思ってもいなかった。
下の階から順に侵入と脱出の経路を考えながら見ていると、着信音が聞こえた。バッグの中に入れっぱなしだったスマホを取り出し通話ボタンを押す。
『もしもし?』
「マティーニ?今いいかしら」
『大丈夫よ。にしても珍しいわね、キュラソー』
「明日のNOCリストの任務、私が代わることになったわ」
『貴女別件で動いてるんじゃなかった?』
「それが一区切りついたのよ。私なら身一つで行けるから」
『そうね。でも、足にはなるわ。すぐに逃げられた方がいいでしょ?』
「ええ、お願いするわ。じゃあ、必要な事はメールしておくから」
電話が切れた事を確認して、パソコンの電源を落とした。
キュラソーならこちらがアシストする必要もないし、むしろ邪魔になる可能性もある。私は運転に徹するしかない。
『はぁ……』
ベッドはないので代わりの大きなクッションの上に寝転がる。ふと、先程まで一緒にいた男を思い出した。
馬鹿な事を聞いたとは思う。でも、どうしてか影が重なってしまうのだ。赤井秀一は死んだ。モニターでその様子を見ていたし、再調査をしたバーボンもそう言っていた。
沖矢昴と赤井秀一は別人だ。そうでなければ困る。もし仮に、赤井秀一が生きていたとするならば……バーボンとキールは消さなければならない。裏切りには制裁を……
『私も裏切り者、よね……』
私はもう戻れないところまで来てしまっている。一つバレてしまえば、あとは芋づる式に明るみになるだろう。死ぬのはいいのだが……ジンが殺してくれないのは、困る。